介護する側が介護される側へ変わるパラダイムシフト

テレビ(実際はサイト)を見て、自分の介護経験が思い出されて記事を書いてみたのだが、気持ちだけが先走ってなかなか書けなかったというお粗末。

この記事を作成するきっかけになったのは、2025年2月14日放送の「ガイアの夜明け」である。タイトルは「シリーズ2025① 理想の介護社会へ」である。テレ東BIZでも視聴期限に間に合えば見ることができる。
訪問介護事業所が年々減少している!?
いったいどっちなのだろうか。記事の内容を読むと総数は増加しているが、倒産と休廃業数は増えているということになる。つまり、閉鎖より開設のほうが多いことになる。
介護保険の対象になる介護サービスは、大きく分けて「施設介護」と「訪問介護」がある。持ち家保有率が高い高齢者層向けの訪問介護の現場で大きな変化が起きているのだ。
かつて「介護する側」だった人々が、年齢を重ねるにつれて「介護される側」へと変わるという現象である。この「パラダイムシフト」は日本の介護制度全体に大きな影響を与えている。
既存の訪問介護事業所の閉鎖が増えてきている事実について、その理由は様々であるが、3つの視点から考えてみた。1つめは事業者の課題、2つめは介護現場の課題、3つめは要介護者側の課題である。
以下、資料を探しきれず、推測も含まれていることを、あらかじめお断りしておく。「おそらく」と書いている部分には推測もはいっている。
事業者側の「年齢の壁」
2016年の政策金融公庫の「訪問・通所介護事業者の経営実態」によれば、当時は60歳~69歳が中心だったので、現在まで継続して事業を行っていると70歳代が中心になる。
代表者の年齢をみると、「60~69歳」が31.2%で最も多く、次が「50~59」歳の25.5%となっている。
団塊の世代の大量退職は2007年だったが、65歳までの雇用延長で実際には2012年頃からピークを迎えだした。おそらく、退職した団塊の世代が次の職場として訪問介護事業に流れたと考えられないだろうか。
そして、現在まで多くの事業所が高齢の代表者によって運営されてきた。これらの代表者自身が後期高齢者となり、「支える側」から「支えられる側」へと移行する時期を迎えている。
次世代の代表者候補も60代が中心であり、10年後には同じ問題が繰り返されることになる。この「年齢の壁」が同じ事業運営の形態で事業継承を行う大きな障壁となっている。
訪問介護事業所の運営形態とは
介護と似たような用語に、看護と介助がある。看護は医療資格、介護は福祉資格、介助は支援の形態を表し、看護や介護のような資格ではない。
介護の分類には、大きく「生活援助、身体介護」があり、通院等乗降介助を加えて3通りがある。この3つの分類の他に、介護保険外のサービスの提供を行っている事業所もある。詳しくは下記のサイトをご覧いただきたい。
生活介助と身体介護の比率は、同一の要介護者(以下、利用者)が2つのサービスを受けている場合もあるが、年々、生活援助の割合が身体介護に比べて減少している。
事業者側も生活援助から身体介護への転換を認識して、訪問介護員(以下、ヘルパー)への要求も変わる。家事の延長戦の生活援助の経験は多くても、介護の経験は家事と比べて少ないのは容易に想像できる。
介護事業者の代表者が男性が多く、現場のヘルパーが女性が多いことは介護内容からも分業せざるを得ないことがわかる。おそらく、この訪問介護事業所の一見男性優位の分業は、高齢の事業主にとっては馴染みやすい環境だろう。
また、電話、FAX、紙の資料という労働環境も高齢者にとって馴染みやすい環境だと言える。パソコンを利用しても印刷物で保管、保存する運営体制が続いたことは確かである。
まず、事業者側が現在のビジネス環境に移行しなかったことが、現在の訪問介護事業所の状況を生み出した1つめの「年齢の壁」である。
訪問介護員(ヘルパー)の高齢化
ヘルパーの37.6%が60歳以上、95.9%が女性という数字が検索でヒットした。よく見れば37.6%は2022年、95.9%は2013年の資料で、非正規に限った場合だった。介護に関する資料は少なく、過去の数値を使いまわしているので要注意である。
いずれにせよ、女性ヘルパーの割合は高く、生活援助が業務の中心となり、自立支援とは言え、身体介護や専門性を必要とする業務への対応力は、年齢を重ねるにつれて負担が大きくなる可能性がある。
ヘルパーが担当する利用者の自宅へは、自力で訪問することが前提になるので、移動手段や労務管理などを自分で行う必要があるし、この時間は賃金に反映されないという実態もある。
また、自宅へ訪問するということは信頼関係を築くことも重要になり、1対1の関係になるので利用者の立場に立って考えることと、自立支援を行っていることを併せて考えなければならない。
高齢女性の傾向として、体力的な衰えや認知症発症率が男性より高く、高齢化に伴い労働力として継続できなくなるリスクもある。現在60代のヘルパーが10年後には70代となり、「支える側」から「支えられる側」になるかもしれない。
ヘルパーになるための資格
ヘルパーになるためには、「介護職員初任者研修」から始めるのが一般的である。資格は段階的に上がり、国家資格である「介護福祉士」がある。さらに上位の資格があり、介護制度の要となる「介護支援専門員(ケアマネジャー)」というキャリアパスが続く。
介護職員初任者研修は現在のところ有効期限はない。初任者研修から経験を増すことはできるが、新たな知識を身に付けるには、日々の努力も必要になる。
ヘルパーは現在50万人を超えている。それでも毎年、数万人不足すると言われている。おそらく、50万人のヘルパーに対して3万の介護事業所があるということは、有職状態ではないヘルパー資格者もいるだろう。
ヘルパーの資格取得年を把握しているはずなので、年齢別の有資格者の人数は把握できているはずである。ヘルパーの高齢化を嘆く前に、実態を把握するほうが先ではないだろうか。
ヘルパーの高齢化、これが2つめの「年齢の壁」である。
利用者の超高齢化
訪問介護事業者の高齢化、現場のヘルパーの高齢化、そして3つめが利用者の超高齢化である。人生100年時代ということは、100歳の子どもの年齢は70代であり、これは紛れもなく老々介護になる。
また70代の子どもの年齢が50代だとすると、働き盛りであり、職場では責任のある立場にいる人も多いだろう。70代の親が介護状態になると、自分の親と祖父母が介護の対象になるかもしれない。
これは「おそらく」ではなく、両親と祖父母のダブルケアという家庭もあるだろう。私の介護経験は両親の介護期間が重なったことによるダブルケアである。
両親の介護を行ってわかったのは、母親と父親の介護方法がまったく違ったということである。同じ介護方法で2人の介護を行うという私の予想とは大きく違っていた。
介護を受ける人が100人いれば100人の介護方法があるのだ。介護を受ける高齢者になにかを要求しても無理だということがよくわかった。訪問介護でも同じことがいえる。
利用者を10人担当すれば、10人分の介護方法を身に付けなければならない。そしてもう1つ、高齢の利用者は毎日同じ人格でいてくれるとは限らない。調子のいい日もあれば悪い日もある。介護をしたことのない人のために、大袈裟に言っているのではない。介護の日々は非日常の連続なのだ。
利用者の意識変化
訪問介護ではヘルパーと利用者の信頼関係が重要であることはすでに述べた。ヘルパーが変わることによって利用者の不安やストレスが高まることも考えられる。
そうなると利用者とヘルパーの信頼関係がなくなり、事業所との契約も切れることになりかねない。事業者側は利用者とヘルパーとどちらの考えを優先すべきだろうか。
訪問介護は「できることは自分で行う」という自立支援を促すが、「全てをやってもらいたい」と考える利用者も少なくない。制度としてもできないこともある上に、家事代行のように考える利用者もいる。この意識のギャップが現場の負担をさらに増大させる。
事業所、ヘルパーには、守らなければならない事項が決められている。同じように利用者も守らなければならない事項はあるのだが、加齢とともにわがままが過ぎることがある。
それでも、ヘルパーが何とかしなければならないのが訪問介護の難しいところである。高齢者の持ち家の保有率が高いことを考えると訪問介護自体はなくならないだろう。
そうなると、国や自治体の制度、地域包括システムに頼るだけでなく、事業者、ヘルパー、利用者の意識改革を高齢者になる前から植え付けることが大切だ。認知症になる前に、一度は考えてみてはどうだろうか。
追加記事:書ききれなかったこと
「住み慣れた自宅で暮らしたい」というニーズに合わせて、介護保険法のもとで訪問介護サービスを設計し、自立した日常生活を送れるようにサービス提供を行なう制度である。
このニーズの信憑性を確かめることから始めたらどうだろう。家族介護を前提としていないだろうか。家族の「施設介護を望む」というニーズもあるのだ。
パワハラ、カスハラ、モラハラ、おまけにジェンダーハラスメントが横行するのが介護である。介護業界ではない。介護を行うと、自分の親からもこのような扱いを受けることもある。聞いた話だが・・。
訪問介護の事業者、利用者、ヘルパーは、昭和世代である。年長者へのふるまい、男と女の役割、定年後の生活、人手による作業などの固定観念で介護という仕組みを考えている。
訪問介護では、介護人材の不足がたびたび指摘される。介護人材とは資格保有者を指すのだが、実際には介護人員の不足であり、家庭で資格なしに介護をおこなうことで人員不足は解消される点には触れない。
同じように、若手の不足も指摘されている。若手とは何歳なのだろうかと聞いたことがある。40代でも若手で、できれば20~30代を望んでいるそうだ。社会保険料を多く払っているのもこの世代なのに。
地方や過疎地の訪問介護が成り立たなくなっているという指摘も増えてきた。地方自治体自体が成り立たなくなってきていることを忘れてはいないだろうか。
さらに、訪問介護にICTやDX、AIやロボットを持ち込む、外国人労働者を採用する、労働環境を改善するなどという論説もあるが、施設介護や介護保険適用範囲などを無視している
最後に、パラダイムシフトが起きた時に、パラダイムシフトの前に戻そうという考えがあるが、パラダイムシフトの意味は不可逆な転換が行われたという意味である。
ということで、言いたいことはまだまだあるが、今回はこのへんで。