ライフステージのマネジメント ~ 「場」で拓く新たな人生観


人生は時系列どおりに単純には進みません。複数のライフステージが重なり合い、その組み合わせが人生に色どりを加えていきます。

人生を形作る多様なライフステージ
人生は、さまざまなライフステージの積み重ねで成り立つ。幼少期の家庭環境や学校教育は、個人の成長を支える最初のステージである。一方、親にとっては子育てが最初のライフステージとなり、高齢期の親の要介護状態は子の介護期となる。
個人のライフステージは他者のライフステージと密接に関連し、同じ時期でも視点が変われば異なるステージが見えてくる。ライフステージは個人だけで完結するものではない。家族や社会との関係性の中で形作られる。
ライフステージが固定されたものではなく、時代や環境、個人の状況によって柔軟に変化し、時には複数のステージが重なることもある。子育てと介護が同時進行することもあれば、高齢期に新たなライフステージが始まることもある。
このような多面的かつ多層的な視点を持つことで、フィナンシャルを中心に据えたライフプランニングとは異なる人生計画を描くことが可能になる。人生計画の目的が豊かな人生だとすれば、豊かな人生とはどのような人生だろうか。
経済的に豊かな人生の他にも、時間的、健康的、人間関係、環境的なども豊かな人生の対象になる。これらすべてに対して豊かになることは、貪欲に生きていくことになりかねない。それぞれの豊かさでトレードオフをするか、そこそこの満足を得ることになるだろう。
ライフステージは人生の一部であると同時に、すべての豊かさを満たすことはできない。それぞれのステージで求める豊かさを、職住隣接というライフスタイルを重ねることで実現しようというのがこのブログのテーマである。
ライフステージの順列と並列とは
ライフステージには、時間軸に沿って順番に発生する「順列」と、同時に進行する「並列」の関係がある。順列は、人生の時間軸に沿って進む単一のライフステージを指し、並列は複数のライフステージが同じ時間軸上で重複する状態を指す。
順列のライフステージは、学校卒業後の就職や結婚、子育てなど、時間軸に沿って進むものが多い。これらはライフプランにおいても予測可能であり、資金計画や生活設計に組み込まれることが一般的である。
一方で、並列のライフステージは複数の役割や状況が同時進行する状態を指す。例えば、配偶者と親の介護を同時期に行う「ダブルケア」や、子育てとキャリアアップの追求を同時に行う場合などがある。
「ダブルケア」はケア労働の負担増加として捉えられることが多いが、子育てはケアではなく、新たな価値観や経験を得る機会ともなりうる。子育てとキャリアアップはベクトルの向く方向が異なるため、一方的な負担ではなく、両方を実現することに価値がある。
ライフステージは「自分」「他者」「社会」という三つの要因によって決定される。他者や社会からの受動的なライフステージの並列状態では、その中でどのように振る舞うかで人生観が変わる。並列状態を解消するだけではなく、それを活かして豊かな人生経験を得る視点が必要だ。
自分に起因するライフステージでも、他者や社会に関連するライフステージでも、経済的、時間的、健康的、人間関係、環境的な制約が存在する。この制約をいかに少なくするかではなく、その幅をいかに広げるかを考えるとき、職住隣接というライフスタイルが力となる。
ライフステージ対する固定観念より現実を見る
社会制度に起因するライフステージには、教育制度や年金制度などがある。これらは社会の基盤として重要な役割を果たすが、年齢や時期によって区分されているため、現実のライフステージではこの区分に当てはまらない場合も増えている。
例えば、ICT(情報通信技術)の進展により、従来の固定的な生活様式は大きく変化している。テレワークは時間や場所の制約を緩和し、オンライン学習は年齢や時期に関係なく学ぶ機会を提供している。
これらの変化は、リンダ・グラットン氏が提唱する「LIFE SHIFT」が示す人生100年時代の到来とも重なっている。「教育→仕事→引退」という単線的なライフステージもはや通用しない。
人生の時期を問わず、学び直しや転職、新たなキャリアへの挑戦が一般的になりつつある。時代の変化に対応するには、固定的な制度や慣習にとらわれない柔軟な発想が必要になる。
現実を見据えたライフステージとは、社会制度との調和も考慮する。制度を否定するのではなく、その基盤を活用しながら柔軟な対応を考える。例えば、年金受給開始年齢は固定されていても、その前後の働き方や生活設計は個人の意思で多様化できる。
固定観念にとらわれず、現実に即したライフステージに柔軟に対応するためにはライフスタイルを変える必要がある。職住隣接は、そのような柔軟な生活設計を支える選択肢の1つである。
ライフステージを特定する
職住隣接というライフスタイルを実現するためには、まず現在の自分がどのライフステージにいるのかを特定することが重要である。
ライフステージは時間軸に沿って順番に訪れるものではなく、複数のステージが同時に進行している場合もある。特に人生後半戦では、これまでの経験や役割が複雑に絡み合うので、整理が肝要になる。
例えば、50代から60代の読者であれば、子供が独立した後の夫婦二人の生活を再構築しながら、親の介護という新たな課題に直面していることが多い。
このような状況では、自分自身のキャリアや健康維持といった要素も含め、複数のライフステージが重なり合っている可能性が高い。
ライフステージを特定する際の3つの視点
1.自分自身に起因するライフステージ
キャリアの転換期や退職後の新たな仕事など、自分自身が主体となるステージ。新しい趣味や、やりたかったことへの回帰するのもよい。
2.他者との関係で発生するライフステージ
親の介護や配偶者との関係性、さらには孫世代との新たな交流など、家族や周囲との関係性から生じるステージ。これらは生活スタイルや時間配分に大きな影響を与える。
3.社会制度に基づくライフステージ
年金受給開始や医療制度利用など、社会制度によって区切られるステージ。この枠組みは生活設計において重要な要素となる。
職住隣接の「場」の考え方を活かす
これらを整理することで、自分が現在直面している課題やニーズを明確化できる。例えば、「親の介護が必要になった」「退職後も働きたい」「夫婦で旅行を楽しみたい」「健康状態を管理する」など、それぞれの状況によって必要となる職住隣接の形は異なる。
職住隣接は、このようなライフステージごとのニーズに応じて柔軟に組み立てることができる。親の介護が中心であれば、医療施設へのアクセスを重視した住環境が求められる。一方で、自分自身のキャリア継続や学び直しを重視する場合には、通勤時間を短縮し集中できる環境が必要になる。
人生後半戦では、これまで以上に「場」の配置と時間の使い方が重要になる。まずは自分自身のライフステージを整理し、その上で職住隣接という選択肢を活用することで、新たな可能性を切り拓くことができる。
ライフステージのまとめ
人生後半戦のライフステージは、自分起因、他者との関係、社会制度という3つの要因で形作られる。これらは単独で存在することは少なく、複数のライフステージが重なり合って進行する。
ライフステージごとに必要な「場」は、経済的、時間的、健康的、人間関係、環境的な視点から整理することができる。これらの要素は相互に関連し、バランスを取りながら最適な配置を考える必要がある。
職住隣接は、これらの要素に柔軟に対応できるライフスタイルである。まず自分のライフステージを特定し、そこから必要な「場」の配置を考えることで、人生後半戦をより充実したものにすることができる。
これらが職住隣接のエッセンスと言える。私の経験から導いたライフスタイルではあるが、これから人生後半戦を迎える方、すでに人生後半戦の道半ばにいる方の参考になれば幸いである。