ライフステージによる変化 ~ 「場」と「ステージ」で考える人生設計


「場」を軸として考える職住隣接を「ライフステージ」という視点から考えると、より具体的に生活と仕事の関係が目に浮かぶようになります。

ライフプランとライフステージの違い
「ライフプラン」と「ライフステージ」は、人生設計を考える上で重要な概念であるが、それぞれ異なる視点を持っている。まずはこの違いを明確にし、職住隣接との関係性をお話ししていく。
ライフプラン
ライフプランとは、人生全体を通じて達成したい目標や計画を指す。一般的に、仕事や家庭、趣味、経済的な目標など、個人が望む未来像に基づいて設計される。例えば、「30代でマイホームを購入する」「50代でセミリタイアする」といった具体的な計画が含まれる。
ライフステージ
一方で、ライフステージは人生を特定の段階に分けたものであり、その時期ごとに直面する課題やニーズを指す。前回の記事にも示した「子育て期、介護期、高齢期」などがこれに当たる。例えば、「住居は、賃貸、持ち家、親と同居」のパターンから選ぶと考える。
これらのステージは個人の選択や環境によって異なるものの、多くの人が共通して経験するものである。ライフプランは個人の目標や価値観に基づく一方、ライフステージは社会的な要因や人生観によって形作られるという違いがある。
職住隣接を考える際には、これら二つの視点を組み合わせることが重要である。個人の目標(ライフプラン)と、その時期特有のニーズ(ライフステージ)を両立させることで、より現実に即した環境を形作ることが可能になる。
ライフステージでは「場」が軸になる
ライフプランでは、年齢やイベントに応じて将来設計を行うが、具体的な生活の場については曖昧になりがちである。一方、ライフステージでは、人生の各段階で必要となる「場」を基準に考える。これは単なる物理的な空間だけでなく、生活環境や活動の拠点となる場所を指す。
まず、自分自身のライフステージにおける仕事と生活の場をどのように考えるかが基本となる。ライフプランでは住宅購入時期や資金計画を重視するが、ライフステージでは持ち家に住んでいる場合、そのまま住み続けるか、新たな場所へ移るかという選択から始まる。
子育て期、介護期、高齢期
「子育て期」の場は、子供を中心に考えながら、自分の仕事や生活との両立が可能な環境を選ぶ。ライフプランが教育費や住宅ローンを中心に考えるのに対し、ライフステージでは生活環境や教育環境などが含まれ、特に少子化時代には、時間経過による場の変化も考慮する必要がある。
「介護期」には親の介護期と自分の要介護期がある。ライフプランでは介護費用の準備が中心となるが、ライフステージでは親の介護期において、まず物理的な距離を考える必要がある。同居や近隣の場合と遠方の場合では、状況が大きく異なり、介護制度や環境自体が異なることもある。親の意思確認から始める必要がある。
「高齢期」は自分が高齢になったときの「場」の選択である。ライフプランでは年金や貯蓄を重視するが、ライフステージでは高齢者に配慮された住環境や地域を選ぶことが求められる。しかし、2人に1人が認知症になる時代では、それだけでは不十分である。あらかじめ自分の意思を伝えておくことも欠かせない。
ICTが発達し、デジタル社会が進展しても、人生における「場」の重要性は変わらない。ライフプランが経済的な準備を重視するのに対し、ライフステージでは具体的な生活の場を考える。終活という高齢期の活動を待つのではなく、人生後半戦に入った時点で考えを始めることが望ましい。
マルチステージと職住隣接
人生におけるステージは、常に複数のステージが並行しており、その間を行ったり来たりしている。仕事と生活の2つのステージに子育てが加われば、3つのステージを行ったり来たりすることになる。
例えば、子育ての当事者である子どもにとっては、学校と家庭の2つのステージでそれぞれ教育と学習という計4つのステージがある。そして、自分のため時間という5つ目のステージがあり、それぞれの場を移動しながら成長していく。
このように複数のステージを移動することを「マルチステージ」という。この用語は「LIFE SHIFT」を著したリンダ・グラットン氏が複数の人生活動に対して名付けたものだが、職住隣接では複数の場を意味している。
すべての生命活動に物理的な場が必要なように、人生にも常に場が必要になる。そして、場という環境でどのように時間を過ごすかが人生そのものを意味する。職住隣接とは、仕事の場と生活の場という2つのステージが隣り合っている状態である。
仕事と生活が互いに影響することを前提に、そのメリットを活かし、デメリットを排除することを目的としている。この組み合わせをベースとすることで、他のステージとの連携がより明確になる。
前述の子育てや介護というステージは、既存のベースの組み合わせを考えることになり、高齢期というステージは、職住というベース自体の見直しを考えることになる。いずれも職と住は隣接し続けることに変わりはない。
物理的な場の移動とステージ間の移動
職住隣接は仕事と生活の物理的な場所が近いと同時に、仕事と生活というステージでの切り替えを短時間で行わなければならない。これを可能にするために仕事と生活の物理的な場の間に共有空間を設け、移動という経験を意識的に得ることを提案している。
宇宙飛行士の金井宣茂氏の経験によれば、宇宙空間での生活は快適で、特に睡眠は地上より質が高いという。それでも、限られた空間での長期滞在には、新しい環境への移動という刺激が求められる。私はこれを「宇宙船効果」と呼んでいる。
移動には、通勤や買い物など目的のための「派生需要」としての移動と、散歩やサイクリングのように移動自体を目的とする「本源需要」としての移動がある。どちらの移動でも目的とは違った効果がある。
それは、環境の変化による刺激によって、自己を客観視する効果である。移動によって得られる新たな刺激は、幸福感や危険予知を高めることになっている。
つまり、職住一体のようなまったく移動のないライフスタイルは、物理的な移動がないためにステージでの役割の切り替えもあいまいになる。職住分離では、移動時にこの切り替えができるが、切り替え後も移動時間となっていることもある。
職住近接と職住隣接は適宜な移動時間を持ち、調整もできる。職住近接は職場からの距離と時間に制約があるが、職住隣接はこのような制限を設けないことが前提になっている。
職住隣接のメリットとは場とステージの移動時間の短縮であるが、宇宙船効果のような刺激のない環境になりがちなので、意図的に自分を客観視できる旅行のような場とステージの転換を組み合わせることが必要になる。
ライフステージの変化と職住隣接の選択
ライフステージの変化は、単なる年齢による区分ではなく、生活の場における役割の変化を意味する。職住隣接では、この変化に応じて「場」の使い方も変化していく。
職住隣接は、自宅内に仕事の場と生活の場を分離して設け、それぞれの目的に応じて使い分けるライフスタイルである。この形態は、家族形態や立地条件によって最適な形が異なる。
自宅が現在のライフスタイルに合っているか、将来のライフスタイルに合っているかを考える必要がある。特に人生後半戦では、家族形態の変化や身体機能の変化に応じて、「場」の使い方を柔軟に変更できる環境が求められる。
職住隣接は、仕事と生活の場を独立させることで公私を明確に分け、時間を主体的にコントロールすることを可能にする。この特徴は、年齢軸で考えるのではなく、ライフステージの変化に応じた生活の質の向上に役立つにちがいない。