子育て期の職住隣接 ~ 家庭教育と社会全体の課題


子育ては確かに大変ですが労働ではありません。どんな状況でも子供と接することは喜びと感じるようにしなければならないと、私は思います。

子育ての義務と責任
子育ては、親にとって大きな挑戦であると同時に、かけがえのない喜びをもたらす。日々の試行錯誤を通じて、親と子がともに成長していく過程は、特別な体験として人生に深い意味を与える。
理想的な子育てを実現するには、親自身の価値観やエゴが障害にならないよう配慮する必要がある。子どもには独自の人格があり、その個性や意志を尊重する姿勢が求められるからだ。
また、子どもが社会的に自立した人格を形成するためには、家庭内だけでなく外部との接触も欠かせない。親には、どのタイミングで子どもに社会的な経験を積ませるかを見極める責任がある。
多くの場合、子どもが最初に接する別人格は母親であり、この関係性を通じて家族という最小単位の社会へとつながっていく。その後、子どもの世界は徐々に広がり、多様な関わりを通じて人格が形成されていく。このプロセスは健全な成長に不可欠である。
親の義務と責任
日本では法律上、親(親権者)には扶養義務がある。しかし、この義務は単なる経済的支援にとどまらず、子どもが社会の一員として自立できるよう、人格を育む責任も含まれている。
とはいえ、親自身が必ずしも社会的に成熟した人格を備えているとは限らない。そのため、子育ては親だけで完結するものではなく、多くの大人が協力し合うことで成り立つ。地域や社会全体で子どもたちを支える仕組みづくりが必要不可欠となる。
さらに、子どもの所属は親の家系ではあるが、子育てそのものは社会全体の影響を強く受ける。家庭と外部環境とのバランスを取りながら、より良い成長環境を整えることが求められている。
子育てと社会の関係
子育てに社会が関わるとは、制度や施設の整備だけでなく、親の子育てへの関わり方を支援することも含まれる。
特に、子育て期と主たる労働力としての活躍時期が重なる現実では、企業による育児休業や手当、公的な補助金や給付金などが親の負担軽減に直結している。
ただ、時間やお金が十分にあれば子育ての質が自動的に向上するわけではない。子育てで最も重要なのは親子関係であり、その構築にはプライバシー保護や社会との適切な関わり方が欠かせない。
間接的な子育てこそ重要
地域コミュニティや第三者が積極的に関わるだけでは解決できない課題もある。例えば、社会として子育てに関わることで個人情報保護にリスクが生じる可能性もある。
特に時間のある高齢者層が過去の価値観で子育てに関わる場合、現在の子育てとのギャップが課題となることもある。社会全体が現在の子育て環境を学び直し、時代に即した支援を行うことが必要になる。
現在の子育ては、親自身が幼少期に経験した環境とは大きく異なっている。物質的な豊かさだけでなく、サービスや人間関係の豊かさが求められる時代になっているからだ。
そのため、価値観や教育観も変化しており、社会全体でこれを受け入れる姿勢が求められている。
家庭教育が必要な時代
子育てには学校教育と家庭教育という二つの側面がある。学校教育は義務教育や高校教育、成年以降の教育まで幅広く関わるが、家庭教育は子どもの成長全体を通じて一貫して続く。この点で、家庭教育は学校教育を補完するだけでなく、独自の役割を果たしている。
一方で、家庭教育を単に経済的支援や情緒的サポート、価値観形成の場と定義することは難しくなっている。その背景には、経済や人口動向、国際情勢など社会環境の変化が大きく影響している。こうした変化を無視して家庭教育を考えることはできない。
家庭教育で親子の絆を育む
では、家庭教育とは具体的に何を、どのように、そして何のために行うべきなのだろうか。家庭は学校とは異なり、実践的な学びを深める唯一の場と言える。学校教育が机上の学びに重点を置く一方で、家庭では日常生活を通じて実践的な学びが可能である。
例えば、学校での授業を家庭で繰り返すのではなく、実際に学校で教育を受けたことを、家族の経験を通して共有することができる。このような重要な環境を、家庭教育の場ではなく単なる「くつろぎの場」として過ごしてはいないだろうか。
もし子育て期にある親が家庭教育に力を入れるのであれば、家庭で過ごす時間を増やすための環境整備が必要である。それは子育て期の仕事と家庭生活の両立ではなく、家庭重視の働き方や暮らし方を実現することにほかならない。
家庭教育から自学自習への移行
職住隣接というライフスタイルでは、子育て期には子育てに重心を置くことが重要であり、理の当然であると考えている。では、なぜ多くの親が子育てに重心を置くことができないのだろうか。
その理由の一つは、家庭教育や学校教育にかかる経済的負担と、学校制度に規定されている教育の偏重にある。
経済的負担を公的資金で賄うには、子育ての有無にかかわらず税金を集める必要がある。さらに、既存の学校制度を改革するには法律の改正が必要である。これらは簡単に解決できる問題ではない。
時間的、地理的、物理的な制約を減らす
子育てに重心を置くことを実現するためには、お金や法律に頼らず、時間的、地理的、物理的な制約を減らすことが求められる。その1つの方法として、オンライン環境を活用した教育と学習のネットワーク化がある。
現在進められている「GIGAスクール構想」は、教科書や教材の電子化、タブレット端末の配布など、既存の教育基盤をICTに乗せ換えているに過ぎない。これではオンライン環境の特性を活かせていない。
さらに、教育と学習の違いが明確に示されていないため、教育のオンライン化は進んでいても、学習のオンライン化は十分に進んでいない。これでは家庭での教育や学習とは連携を取れるはずもない。
子育てというライフステージ
職住隣接というライフスタイルは、「仕事重視」か「生活重視」かという二者択一ではない。職住隣接はライフステージごとに重視することや方法を柔軟に変えていく考え方である。
子育てというライフステージでは、学校での教育と家庭での学習を効果的に組み合わせることが望ましい。とはいえ、すべてをオンライン化で網羅できるわけではない。人格形成や親子愛という人間性の育みには、対面でのコミュニケーションやスキンシップが不可欠である。
子育ては親の責任であり義務であるが、子供が成長し社会人になってからの恩恵は社会全体が享受する。次世代を育てることは社会の持続可能性に直結するため、社会全体が積極的に子育てを支援する必要がある。
個人の課題と社会全体の課題
この考え方は、介護や高齢期のライフステージにも通じる。それぞれのライフステージには、個人の課題と社会全体の課題が存在する。職住隣接は、これらの課題に柔軟に対応できる新しいライフスタイルとして期待できる。
子どもという次世代がいなければ、社会は成り立たない。子どもと子どもを持つ親だけで、子育てというライフステージを担うのではなく、社会全体が担うライフステージとして考えるべきである。
子育て期の職住隣接は、このライフスタイルの始まりに過ぎない。