共用スペースの付加価値~心地よい空間づくりと人生後半戦の備え

共用スペースの付加価値~心地よい空間づくりと人生後半戦の備え
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玄関から始まる心地よい空間づくり、共用スペースが持つ価値観とは。当たり前のことが当たり前でなくなっていることに気づいたという話です。

玄関が第一印象を決める

他人の自宅を訪問するときにはいつも緊張する。同じ家でも、何度も訪問している家でもである。敷地に入り、アプローチを進み、玄関前に立つと、その家の雰囲気が家の外がからでもわかる気がする。

ところが、引き戸かドアを開け、一歩中へ入ると、外からは想像できなかった玄関ホールが現れることがある。土間があり、上がり框(かまち)の段差があり、そしてホールの床が続いている。

なかには、上がり框がない場合もあるし、土間がやたら広いこともある。そういうときは思わず入ってよいのか、立ち止まってしまう。ただ、共通点もある。

玄関が整然としている家は、家の中に通されても整然としているのだ。もっとも私が通されるのは、限られた場所だけだが、ほぼ家の印象は決まる。かといって住んでいる人までが家の印象と同じだとは限らないのだが。

現在、私が住んでいる実家は古く、外壁は汚れていたり、玄関までのアプローチが痛んでいたりする。外観は手を加えるるつもりはないのだが、玄関だけは整理整頓している。

正確には、整理整頓が必要にならないよう、物を置かないようにしている。生活感のない無機質な玄関にしたいのだが、古さは否めないので、せめて清潔に感じるように掃除だけはしている。

気持ちを切り替える

私の場合、共用スペースを通ることで、仕事の集中モードと生活のリラックスモードの切り替えが自然と行なえるようになった。場所と気持ちは連動していると常々考えている。

仕事も読書もカフェではしない。集中モードになりにくいからだ。コワーキングスペースでも、大勢の中では仕事ができないので、ほとんど個人席で仕事をする。

場所にかまわず集中できる人もいるが、私はそういうタイプではない。人混みも好きではないので、リラックスしたい時には、人が少ない時間帯を狙ってカフェや食事に行く。

自分が集中できる場所や時間、またはリラックスできる環境は自分がよく知っている。集団行動が苦手という訳ではないが、長時間はつらい。

だからこそ、私にとって共用スペースは気持ちを切り替える大事な場所となっている。もちろん、これは私の場合であって、誰もが同じように感じるわけではない。

むしろ、人混みの中で集中できる人や、カフェで仕事をすることで生産性が上がる人も多いだろう。大切なのは、自分に合った環境や方法を見つけることである。

トイレの掃除は日課である

共用スペースにはトイレがある。現在はひとり暮らしなので私しか使わないので気兼ねしないが、家族が同居している場合は、身内とはいえ気をつかうのは当たり前のことだ。

仕事上の打ち合わせは外出先で会うようにしているし、プライベートの用件は訪問先で会うようにしている。自分以外でトイレを利用するのは、親しい友人や家族が来たときくらいである。

したがって、玄関と同様に生活感のない、物を置かずに清潔感を損なわないようにしている。換気も24時間しているが、慣れてしまうと自分の家の匂いはわからないものである。

そこで玄関ホールに家族に買ってきてもらったフレグランスを置いている。私はフレグランスに興味がないのと、家族に頼むことでこの家とのつながりを感じてもらいたいからである。

トイレ掃除は日課にしている。最初は面倒だったが、続けているうちに掃除をしないと気持ちが落ち着かなくなった。禅の修行では掃除が重視されているそうだが、わかるような気がしてきた。

古い家だからこそ、清潔さを保つためにトイレと玄関には特に気を配っている。

私の玄関ホールの使い方

玄関の土間に続くホールは上がり框の段差だけで区切られている。玄関は南向きなので、玄関ドア上部の明かり取りから、日中は十分な採光が得られる。夜はオレンジ色のLED電球を点している。

生活スペース、仕事スペース、トイレをつなぐ動線以外にも役割がある。1つはホールから続く階段下を保管庫にしている。ここに屋外での作業や出かけるときのアウターなどを収納している。玄関に続く大きな収納スペースは使い勝手がよい。

もう1つは、仕事の休憩時にリラックスのためのスペースとしても使っている。ストレッチやスクワットなどを行ったり、コーヒーや軽食などもここで済ますこともある。

そんなときに生活感のない無機質なスペースは少し味気ない。キャンピングチェア持ってきて座ったり、観葉植物を持ってくることもある。一時的ではあるが、十分にリラックスできる。

仕事スペースは換気はしているものの風通しはよくないので、気のせいか行き詰ることがある。そんなときは共用スペースで深呼吸をしたりして気分転換を行う。

このようなリラックスを行うスペースとして使うこともあるが、仕事の合間の休憩時間には共用スペースの掃除をしていることが多い。掃除が気分転換になっているのかもしれない。

人生後半戦と共用スペース

私の場合、共用スペースを比較的広く使えている例だが、両親の介護が始まるまでは、共用スペースにはたくさんの物が置かれていた。

自宅で介護を行って気づいたのは、介助や介護器具の置き場所などに広い場所が必要になるということだ。自宅内の移動も支えなければならないし、車椅子での移動にも通路に余裕が必要になる。

介護が始まった当初は、様々な物を置いたまま介護していたが、両親と話をして半ば強引ではあったが、物の整理を行った。そのために共用スペースは広くしていたことが、現在はうまく利用できている。

介護だけではなく、災害時にも物が多いと避難の妨げになるかもしれない。地震対策として、棚などの固定が推奨されているが、できれば棚自体を使わないような工夫が望まれる。

そのためには保管場所を決め、使い終わったら保管場所に戻す、出しっぱなしにしないという基本的な習慣をつけることが大切である。人生後半戦には「終活」を目的として物を少なくすることが勧められている。

共用スペースに限らず、家の中の物を少なくすることは、災害、介護、終活のいずれにも必ず功を奏すると思われる。家の中を今一度見直してはどうだろうか。

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