共用スペースの基本的な考え方~視点を変えることで生まれる新たな価値観
仕事と生活の境界線をとなる見落としがちな共用スペース。その使い方次第で新たな価値を生み出すという話です。
職住隣接の共用スペースとは
「職住隣接」とは、自宅に仕事スペースと生活スペースを独立して配置し、それぞれの目的に応じて使い分けるライフスタイルである。この他に、仕事と生活の両方で使用する共用スペースが存在する。
なお、似たような語句の「共有」は共同で所有することを意味し、「共用」とは異なる概念である。
例えば、玄関は仕事でも生活でも靴を脱ぐという共通の使い方をする共用スペースである。(図参照)共用スペースには玄関の他に、トイレや収納スペースが含まれる。
これらの場所は、仕事と生活のスペースを独立させるための空間として機能し、生活感をあまり感じさせないように清潔で整然とした状態を保っている。
特に玄関は、仕事スペースや生活スペースではなく、自宅全体の印象を決める場所であり、訪れる人にも自分自身にも快適さや良い印象を与える空間として機能している。
このように共用スペースは、仕事スペースでも生活スペースでもない「第3のスペース」として位置づけられ、自宅内で仕事と生活のバランスを保つために欠かせない存在となっている。
時間と場所の使い分け
一般的に、職場では勤務時間が指定されており、その時間内で仕事を行い、終了後は職場を離れるという考え方が基本である。
自宅から職場までの移動時間、すなわち通勤時間は労働時間には含まれないが、通勤手当や労災などの適用範囲となる場合が多い。
一方、自宅で仕事を行う場合、通勤時間が不要となり、その分の時間をどのように使うかは個人の選択に委ねられる。睡眠時間を確保する、仕事や生活に充てるなど、柔軟な使い方が可能になった。
従来、仕事と場所と時間の関係は固定的であった。しかし、交通網の発達による移動時間の短縮や快適性の向上に加え、通信技術の進化によって遠隔地との連携が容易になった。これらにより、自分自身で時間と場所を調整する柔軟性をもたらしている。
特に職住隣接では、前述の共用スペースという新たな視点を加えることで、従来の仕事と生活を分ける二項対立的な考え方から変化している。
仕事の視点での課題解決
職住隣接は基本的に「自宅」で行う形態が多いが、職場内に食事や運動、仮眠スペースを設けた形態もある。生活を重視するなら自宅、仕事を重視するなら職場での職住隣接が選択肢となる。
また、自宅に近いコワーキングスペースや多拠点生活など、仕事と生活の両面で社会的な共用スペースを活用する形態も考えられる。
いずれの場合でも、従来の職住分離とは異なり、職住隣接には特有の課題が存在する。以下では、公私の区別、勤務状況の管理、コミュニケーションの形態という3つの代表的な課題について考える。
公私の区別
職住分離では、職場と自宅という場所による公私の区別は明確だが、通勤時間や休憩時間、勤務終了後の時間の使い方は曖昧になりやすい。
一方、職住隣接では、仕事と生活のスペースを独立させることで公私を明確に分け、勤務終了後は自分自身で時間を主体的にコントトールできる。
勤務状況の管理
職場では部署単位で勤務状況を把握するが、管理者不在時には難しい場合がある。職場での対面管理を行うメンバーシップ型では、勤務状況だけでなく、心理的負担や作業効率なども把握できる。
一方、報告書やデジタルツールを活用すれば、場所に関係なく労働環境が把握でき、特にジョブ型雇用では成果や実績が評価基準となり、勤務時間は補足的な扱いとなっている。
コミュニケーションの形態
仕事上のコミュニケーションは、その目的に応じて適切な方法を選択する必要がある。例えば、ブレインストーミングやディスカッションでは、対面での直接的なやり取りが効果的である。
一方、進捗報告や業務連絡などの定例的なコミュニケーションは、メールやチャットなどのツールを活用することで効率的に行える。これにより、場所や時間に縛られることなく情報共有が可能となる。
生活の視点での課題解決
前出の課題は仕事の視点からでしたが、生活の視点、また共用という新たな視点から考えてみたい。特に人生後半戦における課題解決の可能性を探る。
公私の区別は自分次第
公私の区別は他者に委ねるものではなく、自分自身で行わなければならない。人生後半戦では、これまでの経験や社会的な良識を活かして判断を行う必要がある。
ただし、常識と良識を混同しないことが重要である。常識とは習慣や慣習に基づくものであり、必ずしも良識に合致するとは限らない。
公私を区別するときには、常識と良識を混同せず、それぞれの境界を明確にしつつ、公私は独立したものとして考えるべきである。
生活状況の自己管理
人生後半戦では生活状況の管理を自分自身で行うことが基本となる。そのためには、「自己分析>自己理解>自己管理」の順で進めることが重要である。(詳しくは「39 人生後半戦の自己管理」を参照)
また、これまで培った時間管理や健康管理の方法を活用し、数値化できるものはデジタルやアナログに関わらずツールで管理する。
一方で、自分で管理するのは主に数値化できない心理的、精神的な部分であり瞑想やマインドフルネスなどの方法がある。人生後半戦だからこそ、これまで以上に心身のバランスを意識することが重要である。
コミュニケーションの変化
生活でのコミュニケーションには、家族、親しい友人知人、地域コミュニティ、SNSなどでフォローしあう仲、そして一般社会と広く段階的なコミュニケーションが必要になる。
またコミュニケーション方法も対面から、電話、書面、インターネットと多様になっている。このような多様な相手と方法をすべてカバーすることは難しく、特定の相手と方法を選ばなければならない。
人生後半戦では、どのような相手と方法を選ぶかが大切になり、どのコミュニティに属するかが決まるので、模索し続ける必要がある。
共用スペースの新たな可能性
近年、共有やシェアという用語が多用されている。共有とは共同で所有することを意味するが、私が提案する共用とは所有権ではなく、共同で利用する、または利用させてもらうという考え方である。
私は「共用」をニュートラル、客観的、または一時的という意味で使っている。共用スペースが多目的スペースと異なるのは、仕事や生活という特定の目的に縛られない場所だからである。
例えば、玄関は仕事と生活の入り口と考えずに、自宅の入り口として考える。また、トイレは生活スペースの一部ではあるが、仕事中に生活スペースの一部を借りるという考え方をしている。
このように考えると、自宅外にも共用スペースを広げることができる。敷地内の庭、近くの公園、図書館などの公共施設、コンビニやコワーキングスペースなども一時的な共用スペースとなる。さらに、職場も同様の考え方で仕事スペースの共用と捉えることができる。
このような考え方で、次の記事からは、家族、地域、サービスについての共用と、共用するために必要なオンラインコミュニケーションについてお話しする。