変化する生活スペース~人生後半戦のライフスタイルを再考

変化する生活スペース~人生後半戦のライフスタイルを再考
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生活スペースの基本構成をもとに、私が実践しているスペースの使い方とライフスタイルの変化についてお話しします。

生活スペースとしての自宅

自宅住居(以下、自宅)は「基本的に「生活のためのスペースである」ということに異論のある人は少ないだろう。「職住隣接」というライフスタイルは、自宅に仕事スペースを持ち込むという考え方である。

単なる在宅ワークと違うのは、独立した仕事スペースを設置し、生活スペースとは共存しないことである。既にこのような間取りで暮らしている方もいるだろう。

今回からお話しするのは、仕事スペースではなく、職住隣接の生活スペースである。自宅が現在のライフスタイルに合っているか、将来のライフスタイルに合っているかを考えてみてはどうだろうか。

自宅の間取りは、入居時のライフスタイルに合わせ、家族が増えた時のライフスタイルに合わせることまでは考えるだろう。その後の家族が減ったとき、そしてひとり暮らしになったときのライフスタイルに合っているかどうかは最初からは考えない。

仮に、新築の持ち家だとしても、人の寿命が延びれば、自宅の寿命も併せて考えなければならない。35年ローンを組んだ場合は、自宅の劣化状況を見ながらリフォームが発生するだろう。

自宅の老化はリフォームでよみがえるかもしれないが、自分の老化はリフォームとはいかない。そこでライフスタイルも変えるべきなのだが、今までのライフスタイルの延長を選んでしまう。

これからの生活スペースを考えるときには、ライフスタイルの変化も併せて考えてはどうだろうか。

生活スペースの基本構成

自宅の生活スペースの中心になるのが居間(リビング)である。ここでテレビを見ながら家族団らんが想定されているスペースである。現在ではテレビを囲むことは少なくなり、個別でテレビを見たり、テレビではなくネット動画を見ることが増え、リビングの広さは必要なくなってきた。

台所(キッチン)が母の牙城であったのは昔のこと、今では冷蔵庫に家族の必需品が所狭しと並んでいる。調理道具も母以外は触れてはいけない雰囲気もあったが、誰もが調理を行える電子レンジがあれば人を選ぶことはなくなった。

寝室は寝るための部屋ではなく、収納家具や勉強机などが置かれているのが普通であった。現在では、睡眠は健康管理の重要な要素として考えられ、照明や温度、湿度の管理も行えるようになっている。生活スペースでは長時間使われるスペースである。

これらに加えて、自宅には清潔さや衛生を保つためのスペースも欠かせない。この場所は家族構成に関係なくすべての住居に備わっており、日本人特有の清潔好きな文化を象徴している。歴史的には比較的新しい習慣ではあるが、このライフスタイルはこれからも守り続けたい。

さらに、自宅には家族構成に応じて個人の部屋も設けられている。この個室こそが人生後半戦において大きな役割を果たす。職住隣接というライフスタイルにおいて、この空間をどのように活用するかがポイントとなるだろう。

私の生活スペースの実態は

仕事スペースと生活スペースが独立していれば職住隣接は成立するともいえる。生活スペースの基本構成が独立している必要はない。 ワンルームに収まっていても何も問題はない。

現在、私は両親のいない実家で暮らしている。1室を仕事スペースに割り当てている他は大部分が生活スペースとなっている。

居間(リビング)→多目的スペース
かつてのリビングにはソファとテレビが中心の配置であったが、両親の介護時にソファと収納棚を取り除き車いすが移動しやすいスペースを作った。その後、両親が施設に入所してからは、主に洗濯物を干す場所になっていたが、今は何も置かず多目的スペースとして使っている。ちなみにテレビはない。

台所(キッチン)→家事スペース
台所と居間は半仕切りのある状態でつながっている。食器棚や調理道具の収納していた棚は残っているが、パントリー代わりに使っている。移動可能な食卓と椅子を2脚おいているが、いつもは多目的スペースとの中間が定位置となっている。食事以外にも生活作業はここで行っている。

寝室→休養スペース
寝室はリビングに続いている和室にベッドを置いている。襖戸で仕切ることもできるが、開けっ放しにしている。夜だけリビングの室内灯を遮るためにカーテンを閉める。睡眠が十分にとれないと、持病のある心臓に負担がかかるので、調光、温度、湿度、寝具など睡眠環境には気を使っている。

ここで画像でも添付すればブログらしくなるのだろうが、プライベートスペースを公開するつもりはないのでご勘弁いただきたい。

家族の構成とライフスタイルの変化

冒頭でも触れたが、家族の構成と自宅スペースは密接な関係にある。大家族から核家族、核家族からパートナーとの二人世帯、そして現在は単身世帯が多くなっている。この変化に伴い、私たちは自宅スペースをどのように適応させるかを考えなければならない。

これまで、多くの人はリフォームや転居によって物理的な空間を変えることで対応してきた。例えば、子どもが独立した後の空いた部屋を目的に合わせて改装したり、高齢になった親との同居に備えてバリアフリー化を進めたりするかもしれない。

しかし、物理的な変更だけではなく、家族構成の変化に伴ってライフスタイルそのものをどう変えていくかという視点が大切である。単身世帯では一人時間を充実させる工夫を凝らしたり、二人世帯ではお互いのプライバシーを尊重することも考える必要がある。

生活スペースからのライフスタイルを考えるだけではなく、自宅に仕事スペースを配置するという職住隣接の考え方も、ライフスタイルを大きく変えるきっかけになる。

物理的スペースを変えてもライフスタイルを変えない、ライフスタイルを変えても物理的スペースを変えない、このような状態では長続きしない。人生後半戦にどのように暮らしたいかをまず考え、そこから逆算するように考えたほうがよいだろう。

体の変化に合わせた生活スペース

私は3年間、自宅で両親の介護を行った。介護状態は時間が経つにつれて要介護度が進み、最終的には施設での介護に頼ったのだが、その間に感じたことをお話ししてみたい。

要介護度が進むと、少しずつできなくなることが多くなるのだが、毎日のことなので介護する側も介護される側もその変化に気づかない。これがストレスの元となるのだ。

ケアマネージャーに勧められて介護日記を書くことにした。読み返したときに、日々の変化がわかるようになり最終的には施設のお世話になると考えていたが、施設の入所を拒んでいた両親には伝えなかった。

そこで、私は施設での生活とできるだけ同じように自宅での介護方法を変えた。ネットや本、デイケアなどの付き添いで、いろいろなことを学んだ。私の目的は両親の介護ではなく、両親のライフスタイルを変えることになった。

2年半ほどかかった後、スムーズとはいいがたいが、それぞれ介護状態に合わせて異なった施設に入所した。急激な変化を感じないように、慣れるまで毎日のように施設に通った。

安心して施設で暮らせるまでに、それから半年ほどかかったと思う。もし、もう一度介護できたらもっと上手に、もっと穏やかに介護できたのではないかと思う。

人生はいつかは終わる、本当の幸福とは

当たり前のことだが、人生はいつかは終わる。その時の場を「終の棲家」という。しかし、私は終の棲家を目指すだけではなく、その時々でこれからのライフスタイルを自分で考え、作り上げていくことが大切だと思う。

人生後半戦においては、過去の経験に拘ることなく、自分自身の価値観や希望に基づいて新しいライフスタイルを考えるべきだ。物理的なスペースも含めて、自分に合った生活環境を整えることが、最後まで自分らしく生きるための鍵となる。

いまわの際に感じる幸福感とは、他者から与えられるものではなく、自分が選び作り上げたライフスタイルの最中で人生を全うすることで得られるものだろう。

人生とは一番長く時間を過ごした環境で作られる。次回は生活時間についてお話しします。

職住隣接物語