人生後半戦のコミュニケーション ~職住隣接における課題と可能性
加齢とともに変化するコミュニケーションの課題と、人生後半戦で職住隣接を始められない理由についてお話しします
人生後半戦のコミュニケーション
人間にとってコミュニケーションは生きていくためには欠かせない。そして仕事でも生活でも、あらゆるシーンでコミュニケーションは重要だ。
コミュニケーションの方法も人それぞれ異なる。人生後半戦ともなれば、長い年月の間に自分のコミュニケーションを作り上げてきた。それは、個性であり、ある意味では誇りであるかもしれない。
同時に、加齢が進むにつれて、思うようにコミュニケーションができないこともある。活舌が悪くなったり、記憶力が衰え、「あれ、あれ」などの指示語が増えてしまう経験は誰でもあるだろう
このようなコミュニケーションの変化は、人間関係にも大きく影響する。自分と同じような考え方を持つ者同士ではコミュニケーションが取りやすいため、人間関係が狭くなってしまう。
それだけではない。新しいコミュニケーションを身に付けようとすることを避けるだけでなく、新しいことからも距離を置くようになってしまう。そのほうが楽なのだ。
私も理解できる。新しい働き方や暮らし方に変えれば、より楽に人生を送れるはずなのに、人生後半戦を迎えた多くの人々は、あえて変化を避け、従来の方法を選択しているのが現実なのだ。
では、職住隣接という新しい働き方において、コミュニケーションはどのように変化するのだろうか。
職住隣接のコミュニケーション
職住隣接は在宅スペースで基本的には1人で仕事を行う。本来の仕事から雑用まで担当しなければならないので、コミュニケーションを取る時間も限られている。
コミュニケーションに適切な時間は決まっていない。内容や相手、前後の予定などから、時間を配分する必要がある。1人で仕事をするときには、この限られた時間の中でコミュニケーションをとらなければならないため、効率的な方法をとることが重要になる。
時間調整がしやすいコミュニケーションの方法は、テキスト(文字)で行うコミュニケーションである。リアルタイムではなく、時間差で行うので、自分の時間配分を調整できる。テキストでコミュニケーションを行う場合は、文を作成するときに考えるので要点を明確にできる利点もある。
一方、リアルタイムのコミュニケーションで代表的なのは電話である。急ぎの用件でなくても電話するのは、従来の方法だからでもなく、操作が手軽だからでもない。思いついた時に、忘れないうちに用件を伝えたいという気持ちが優先するのだろうが、要点が整理されていないこともある。
職住隣接のコミュニケーションは、時間差のコミュニケーションを上手に使うことを心がけなければならない。これは何も職住隣接だからというのではなく、多くの人が行なっている現在のコミュニケーションの方法である。しかし、このような新しい方法を受け入れることに、抵抗を感じる人も少なくない。
人生後半戦で職住隣接を始められない理由
人生後半戦で職住隣接に抵抗がある人には2通りある。1つは人生後半戦は働きたくないという従来の「教育-仕事-引退」という考え方の人である。この考え方は、長年の社会システムや周囲の期待によって形作られてきた。
もう1つは、自宅は生活の場所という職住分離の習慣から抜け出せない人である。自宅にいることで仕事を行う気持ちになれないという心理的な理由である。
後者の人の場合は、自宅以外でならば仕事を行うことが可能であるので、仕事自体ができないというわけではない。仕事は職場でするものという従来の考え方にとらわれているのだ。
この考え方は、職場が変わる、すなわち転職しても長続きしないことが多い。これは単なる職場という場所への執着ではなく、過去の働き方や人間関係に対する固定観念なのである。かつての職場での経験や人間関係が、新しい働き方への移行を妨げるのかもしれない。
自宅で仕事を行う気持ちになれないと、仕事を始めるまでに時間がかかり、仕事に飽きたらその日の仕事をやめてしまうということがある。
これでは仕事としては成立しない。このような人のためにも、仕事スペースをつくることは重要な第一歩となる。仕事と生活の境界を明確にし、仕事モードへの切り替えを促すことで、従来の働き方からの段階的な移行が可能になるだろう。
ただし、このような変化を受け入れるためには、時代の流れを理解することが不可欠である。
コミュニケーションは時代とともに変わる
時代とともに変わるのは仕事や働き方、作業だけではない。もっとも大きく変わるのは働いている人自身である。備品や機械は時間が経っても購入したときのままだが、人は加齢とともに変化していく。その変化は、時として成長であり、時として衰えでもある。
この事実を伝えると、決まって「変わることがいいこととは限らない」という自己擁護の反応が返ってくる。これこそが保守的な態度の表れである。変化を否定的にとらえ、現状維持を選択しようとするのだ。
人は時間の経過とともに成長し、人生後半戦になると加齢による変化も避けられない。ところが保守的な考え方に固執する人は、どこかで時間を止めようとする。成長も老化も受け入れず、ある時点での自分の状態に留まろうとするのである。
この「時間を止める」という思考は、自分の人生だけでなく、社会との関係性も固定化してしまう。今までお話ししてきたように、新しい働き方や暮らし方を受け入れない理由も、ここにある。
では、時間とともに変化を受け入れるにはどうすればよいのか。答えは「学ぶ」ことにある。それは単に新しいスキルを身につけることではない。自分自身の変化を認識し、受け入れることから始まる。その上で、時代の変化に合わせて柔軟に適応していく姿勢が重要である。
人生後半戦の職住隣接の実現に向けて
職住隣接という新しい働き方も、時代の変化とともに考えていく必要がある。それは単なる場所や方法の変更ではなく、人生後半戦における新たな可能性への提案として受け取っていただきたい。
「学ぶ」という姿勢は、具体的には以下のような取り組みから始めることができる。まず、自分の仕事の中で変えられる部分を見つけ出す。次に、デジタルツールなど新しい手段を少しずつ取り入れてみる。そして、自分のペースで着実に進めていく。
大切なのは、職住隣接を単に受け入れるだけでなく、自分に合った形に変えていくことである。物理的なスペース、時間の使い方、コミュニケーションの方法など、それぞれの要素を自分の状況に合わせて調整していく。これまでお話ししてきたように、仕事スペースは職住隣接の第一歩である。
次章では、仕事スペースと調和する生活スペースについて考えていきたい。なぜなら、職住隣接は仕事と生活の新しい関係を築くことだからである。