心理的な仕事スペース~パフォーマンスを最大限に発揮できる環境づくり
集団と個人の違いから、3人のレンガ職人の話を別解釈を交えてお話しします。最高で最大のパフォーマンスに近づけるには・・
集団作業と個人作業の違い
集団と個人の違いは、個人の集まりが集団というわけではないことをまず理解する必要がある。私は常々、「全体は部分の集まりとは限らないし、部分は全体の一部とは限らない」と説いている。
このことは、全体を集団、個人を部分に置き換えても同じことがいえる。例えば、10人の集団は10人の個人の集まりではなく、1つの集団として意志を持ち行動するということだ。
10人が個人の考えを主張し、集団としての方向性を持たなければ、集団としての行動はできずバラバラになってしまう。各自が個人の考えを調整しながら、集団としての考えを構築することで集団行動が可能になる。
集団作業には、個人の役割がそれぞれあり、その役割を果たすことで、集団としての成果を達成できる。個人の役割とは、個人の作業を行うと同時に、集団の作業を行っているという認識が必要になる。
集団作業の目的は、個人の作業では達成できない成果も可能にすることである。もし、集団作業が個人の作業の集まりならば、各自がそれぞれ個人で作業しても同じ成果をだすことができるはずだ。
集団作業と個人作業を同じように考えてしまうこともしばしば見受けられる。集団を作らなくても個人が作業を行うことで可能になることも多々あるのだ。
仕事と作業、そしてチームワーク
集団と個人の違いを作業を例に挙げて説明したが、仕事と作業の違いについても説明をしておかなければならない。まず「作業のない仕事はないし、目的のない仕事はない」というのが大前提である。
個人で仕事を行うときに、1人では「質と量と期限」を満たすことができない場合がある。仕事を作業に細分化し複数の人で行うことになる。同時に細分化した作業をまとめるという新たな作業が発生する。
この新たな作業は目的を理解することによって可能になり、仕事に昇華することになる。一方で、個人が行う仕事には数値目標が必要になる。前述の質と量と期限を守ることが必要になる。
3人のレンガ職人の話
ある旅人が3人のレンガ職人に次のように尋ねた。
「あなたは何をしているのですか?」
1人めのレンガ職人は「レンガを積んでいる」と答えた。
2人めのレンガ職人は「レンガを積んで生活費を稼いでいる」と答えた。
3人めのレンガ職人は「多くの人のために大聖堂を作っているのだ」と答えた。
脚色はいろいろあるが、おおよそこのような話である。
3人めのレンガ職人が仕事をし、1人めと2人めのレンガ職人は作業をしていると説かれ、「仕事は目的をもって行わなければならない」という結論に導かれる。
私も最初に聞いた時にはなるほどと思った。でも今ではそうは思わない。1人めのレンガ職人が一番速くレンガを積み、2人めのレンガ職人が一番丁寧にレンガを積み、3人めは速さも丁寧さもなかったとすると、どうだろうか。
個人の仕事としては1人めか2人めが評価され、3人めは評価されないだろう。ところが、最初の話では3人めが最も評価されている。では3人のチームとして見たときはどうだろうか。
それぞれが自分の仕事をしている、チームワークがよいと評価されるかもしれない。集団と個人、仕事と作業の違いは、どこに焦点をあてるかによって異なるのだ。
職住隣接の仕事スペースと在宅ワーク
一般的な在宅ワークは、職場での仕事を自宅で行う、パソコンと通信環境さえあれば仕事ができるという意味で使われていないだろうか。職場での仕事環境と自宅での仕事環境まではあまり触れられない。
職場でもひとり一人の仕事が異なるように、仕事環境も同じではない。職場での位置関係も、仕事に使う備品も同じではない。職場での仕事環境がベストかどうかはさておき、どのような環境が自分の仕事に必要だろうか、もしくは必要ないだろうか。
在宅ワークは、自宅で仕事を行うというよりは、自宅で作業を行うという意味で使われているのかもしれない。実際には職場では仕事環境も作業環境も整っている。日本では、私物を職場に持ち込むことはあまり見られない。
職住隣接では作業スペースとしての在宅ワークの環境も整えなければならないが、仕事スペースとしての環境も整えなければならない。そのためには、自宅の生活環境とは別の環境を構築すべきである。
心理的環境の具体例
あるオンライン会議で、自宅で仕事をするときにペットを膝の上に乗せて仕事をするのを見たことがある。「仕事中にペット?」と思って、会議後に「気が散らない?」と聞いたことがある。
返ってきた答えは、「このほうが仕事がはかどる」のだそうだ。職場ではペットのことが気になっていたというのもあるし、自宅でペットを膝に乗せていると心が落ち着き集中できるのだという。
このようなペット効果が誰にでもあるわけではないだろうが、自分のパフォーマンスを最大に、最高にできるのならペットに限らず、私物を近くに置くのもよいだろう。職場では気づかなかった、自分に最適な環境を見つけることができるのも職住隣接の利点だ。
私も自宅での作業中は音楽をずっとかけ流している。これも他の人からみれば気が散ると思われているに違いないと思い、一時は止めたこともあるが、やはり音楽があったほうが仕事がはかどる。職場では気づかなかったが、音楽のある環境が自分にとって最適だったのだ。
このように、仕事環境というのは人によって影響を与えるにちがいない。特に個人の作業を行うときには、心理的な環境を整えることは重要である。
職住隣接で実現する心理的な仕事環境
近年、職場での心理的な環境について、「心理的安全性」という用語で環境整備が行われている。ただし、これはパワハラに代表されるハラスメントや、ネガティブな不安要素を排除することが目的である。
私が考える職住隣接の心理的な仕事環境というのは、「個人が自分のパフォーマンスをどのようにすれば発揮できるか」という心理的側面からのアプローチである。
例えば、誰かが近くにいなければ孤独感を感じるという人もいれば、誰かに見られているという感覚がストレスになるという人もいる。人それぞれ、または当日の健康状態によっても違うだろう。
私は職住隣接を行うようになって、最初はLINEで、新型コロナ禍ではZoomなどで、一定の時間に仕事関係で関わりある人に対してオープンにしていたことがある。
「何をしていますか?」という人もいれば、仕事の愚痴やZoomの使い方、プライベートの話やら、見積依頼まで、なんでもありだった。そこに参加した人には共通点があった。
それは、急ぎの用事はほとんどない、ということである。在宅で仕事をしていると、仕事環境にいるにもかかわらず、生活の中の自分に戻りたい時があるようだ。
このような短時間のコミュニケーションがあるだけで気分転換ができ、新たな気持ちで仕事のパフォーマンスを再発揮できるのかもしれない。
仕事と生活の境界線上にある、このような心理状態の切り替えも、職住隣接ならではの特徴といえるだろう。