物理的な仕事スペース ~なぜ自分に合った仕事環境づくりなのか
自宅での仕事スペースづくりを、私の試行錯誤の経験から、ロケーションや環境整備の具体例を交えてお話しします。
自宅での仕事スペースは可能か
職住隣接は、自宅に独立した仕事スペースを設けることが可能かどうかが最大のポイントになる。私の場合は、実家の独立した四畳半の一室を仕事スペースにすることができた。
この仕事スペースの独立性は、自宅が生活スペースであるという前提を崩すことになる。可能であればリフォームを視野に入れて、独立したスペースを確保することから始めたほうがよい。
独立させることによって得られる効果は多々あるが、集中力が必要になる仕事の時には特に効果を発揮する。また、仕事関係のコミュニケーションをとるときも邪魔が入りにくいのが独立させる理由の1つだ。
自宅で仕事を続ける場合に、どのくらいの作業スペースが必要になるかを検討しなければならない。例えば、職場では当たり前のコピー機やプリンターなどが必要かから考える必要がある。
自宅環境を見直すときには、同居者の考えも尊重しなければならない。また、当然のことながら、仕事スペースの状況を職場に報告しなければならないこともある。
職住隣接を行うのは、仕事を自宅で行うという一時的な在宅ワークではなく、自宅の仕事スペースが主たる仕事環境と考え、職場は必要に応じて利用する場所と考えたほうがよい。
自宅のロケーションは適切か
職住隣接では自宅のロケーションが適切かどうかも、初期の段階で考えておかなければならない。ロケーションとは立地のことで、自宅は生活するのに適した立地かどうかで選ばれているのが一般的だ。
特に近年の異常気象による夏季の高温には注意が必要である。職場ではエアコンで適温に保たれている環境でも、自宅の仕事スペースで同じ快適性を得られるかどうかは、あらかじめ対策を練るべきだろう。
自宅で仕事を始めて最初に気づくのは、通信スピードの問題である。日常生活には差し支えなくても、ネットを使ったビデオ会議では職場と同じスピードが得られるとは限らない。特に集合住宅は要注意だ。
通勤がなくなると、食事や買い物、通勤途中での所用を済ませることができなくなり、わざわざ出かけなければならない。自宅の近くにそのような場所がなければ、時間の無駄が発生する。
私の場合は近くにコンビニと郵便局があり、地下鉄の駅も近い。当初は十分なスピードが得られなかった通信環境も、回線業者を4回変えて満足できるスピードを維持できるようになった。
地域のコミュニティとの関係は別記事で詳しく説明するが、新型コロナ前よりはコミュニティ側の方々に理解してもらえるようになってきている。
自分の仕事が職住隣接に適しているか
職住隣接に適していない職業や職種もある。これは読者の方々がご自分で判断するしかないのだが、一般的には、現場がある仕事、施設が必要な仕事、公的な仕事は適していない。
例えば、現場がある仕事なら建築土木関係、施設が必要な仕事なら工場や店舗、公的な仕事なら役所や病院、インフラ関係などが該当する。
このような仕事をされている方も、人生後半戦になってからの仕事を考えるときに職住隣接が選択肢となるのではないだろうか。副業、兼業、複業という形態もあれば、独立、NPO、ボランティアなどの活動も考えられる。
私のきっかけは持病と両親の介護だったが、同じように個人の事情で職場での仕事が困難になることもある。職場の理解やサポートがあればよいのだが、長期化すれば必ずしも良好な関係を維持できるとは限らない。
世の中はVUCA(先行きが不透明で、将来の予測が困難な状態)になっている。個人には関係ないと思いがちだが、人口減少、高齢社会、労働力の減少、少子化という現実を考えれば、高齢者になっても仕事を続けなければならない時代になっている。
※VUCAとは、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)という4つの言葉の頭文字をとった造語
自分に合った職住隣接の仕事スペース
現在のような一極集中の職場での仕事スペースのあり方は、戦後の高度経済成長時代に定着したと言われることがある。果たしてそうだろうか。
一極集中で力を合わせて仕事をすることは古代から行われていた。ピラミッドや万里の長城も一極集中の産物であり、近代までの農業や工業も一極集中が基本だった。
ここで考えなければならないのが、時代に合わせた働き方である。一極集中の時代には、その方法が最適だと考えられた結果である。しかし、現代において一極集中は時代に合っているだろうか。
交通は発達し高速移動が可能になり、大量の物資や人々を運ぶことができ、通信技術の進歩は目を見張るものがある。一方で、個人が1人で行える仕事の量も質も格段に向上した。
一極集中では誰もが同じ環境で仕事をしていたが、現代においては画一的な環境よりも、一人ひとりが最大かつ最高の成果を出せる環境を整えることが必要になっている。
人口増加の時代には一極集中が成り立っていたが、人口減少時代には一極集中ではなく、むしろ個人に適した環境を整え、分散することで成果を上げる方法を考えるべきである。
自分に合った仕事の環境をつくる
自宅で仕事を行うときに、どこの職場にでもあるコピー専用機は必要だろうか。紙を印刷するという主機能があり、プリンターやFAX機能があっても、紙を使わなくなれば必要はなくなる。
むしろ、手元でオリジナルの文書が見たり、送ったりできるアプリのほうが必要だろう。誰もがこのようなアプリを手元に置けば、コピー専用機も複合機も必要ない。
必要なのはハードよりソフト、そしてソフトの操作を身に付ける学習力である。ハードが増えれば、ハードの数だけ操作を覚えなければならないのは、テーブルの上に並ぶリモコンの数が、それを物語っている。
この考え方を自分の仕事スペースに当てはめると、職業や職種によって異なりはするが、仕事スペースに本当に必要なものがわかってくる。
かつての私の仕事スペースで最も場所をとっていたのは、これまでに読んだ本だ。次いでパソコンの周辺機器、プリンター、スキャナー、外部記憶装置などが続く。これが今は10分の1のスペースに収まっている。
仕事によっては専用の道具が必要になるし、モノづくりでは必要な機器や作業場所も必要になる。それらまで不要というのではなく、自分の仕事の本質を見直せばモノは少なくできるということである。
仕事スペースの本当の役割はなにか
仕事スペースにこだわるのは、職住隣接を行うことによる時間的メリットが、自分にも、職場にも、顧客にもあるかということだ。
また、今までにない働き方や仕事のプロセスであるため、心理的な不安が生じることもある。これらを払拭できるかどうかは、仕事スペースのあり方で大きく変わってくる。
これらについては次回以降にお話しする。