職と住の経済的関係~新たな視点から考える
「職」と「住」の経済的な関係を見直し、「なぜ人生後半戦に職住隣接なのか?」という点についてお話しします。
職場になぜ通うのですか?
今までに「職」と「住」の関係を、時間と距離、人間関係において考えてきた。今回は経済的な関係について考え、これら4つの相互関係としてまとめてみる。
「職場になぜ通うのですか?」という質問に対して、多くの人が「仕事のため、生活のため、お金のため」と答えるだろう。
このような回答からも分かるように、「職」と「住」の関係を考える上で、経済的な側面は非常に重要な要素といえるだろう。そこで、この経済的関係を今回は取り上げてみたい。
マクロの視点とミクロの視点
「職」と「住」の経済的関係は、マクロの視点での考え方、すなわち、地域経済、国家経済、世界経済を踏まえての考え方と、ミクロの視点での考え方がある。
ミクロでの考え方とは、個人や企業を単位とする考え方で、今回の記事はこれに焦点を当てている。しかしながら、マクロ経済の影響も完全に切り離すことはできない。
例えば、為替変動や少子高齢化といった大きな経済トレンドは、個人の職と住の選択にも間接的に影響を与えている。
日本国内でいえば、首都圏と圏外の地方部、さらに地方部の都市部と都市周辺部や過疎部では、経済格差があることは認めなければならないし、自ずと「職」と「住」の関係も異なってくる。
これらの背景を念頭に置きつつ、以降では個人や家庭という、よりミクロな視点から「職」と「住」の経済的関係を考えていく。
職場のコスト
職場は仕事の場であるので、仕事中心の考え方が必要になる。冒頭の職場に通う目的が、生活のため、お金のためと同じように、仕事を維持するためにもお金が必要になる。
仕事を維持するための1つに職場の維持がある。職場の維持には、施設や設備の賃料や保守などの維持コスト、水道光熱費や消耗品のようなランニングコスト、そして働く人のための福利厚生コストが必要になる。
職場が稼働している間は、これらのコストが常にかかっており、近年では労働環境の改善や、さらに快適な労働環境を目指してコストが上昇している企業もある。
このコストを負担しているのは、厳密には企業ではなく、従業員の生産性によって生み出された利益から負担していると考えられる。
つまり、間接的ではあるが、従業員自身がこれらのコストを負担しているとも言える。
職場は自己投資の場
職場は組織や企業が管理する場であるが、同時に働いている従業員のための場でもある。したがって、仕事の場も自分の人生の「場」の1つとなる。
従業員は給与という直接的な経済的利益を得る一方で、職場環境の維持・改善コストも間接的に負担している。これは従業員自身の生産性と経済的価値を長期的に高める投資とも言える。
「職」は単なる収入源ではなく、自己投資の場でもあるのだ。この視点に立つことで、我々は「職」と「住」の経済的関係に改めて意味を見出すことができるだろう。
住居のコスト
次に、「住」の側面から見た経済的関係について考えてみよう。
職場には収入(売上)と支出(コスト)があることは前述通りで、生活の場である住居にも同じように収入と支出がある。大きく違うのは、職場ではコストとなる給料が生活では収入になることである。
住居の維持には、住宅ローンや家賃などの基本的なコストに加え、水道光熱費、修繕費、保険料など、様々な支出が必要となる。また、家具や家電などの設備投資、定期的な修繕や更新なども欠かせない。
これらは職場のコストと同様に、生活の質を維持・向上させるための投資とも言える。つまり、職場と住居は表裏一体の経済関係にあるのだ。
住居の本質的価値
住居は単なる生活の場ではなく、人生の基盤となる「場」でもある。睡眠を安心して、安全に、安定的にとれる場所であり、生活の質を決定づける重要な要素となっている。
このように、給料は従業員にとっては生活を支える収入であり、企業にとってはコストである。給料をめぐる話し合いは、企業と従業員の間で常に重要な課題となっている。
企業側でコストを削減しようと思えば給料も対象になる場合もあれば、従業員側が給料アップを望めば企業側のコストが増加する。いわゆる労使関係で常に協議の的となっている。
これが仕事と生活を結びつけるのが「お金」であるかのような考えに結びついてしまうのである。職場では仕事の目的と個人の目的が同じ方向を向き、それを実践できる環境が最適である。
仕事と生活の分離
同様に、生活の場である住居では個人の目的が達成できるような環境が最適である。このように考えると、一見、職住分離の環境が最適であるように思えるかもしれない。
しかし、ここで重要なのは、物理的な職場と住居の分離ではなく、仕事と生活という異なる活動の分離なのだ。職住分離は必ずしも仕事と生活の最適な分離を意味するわけではないのである。
仕事と生活は経済的に表裏一体の関係にあるが、それぞれの目的は異なる。同じ場所で異なる目的を追求することは、双方の効率を下げる可能性がある。
したがって、職と住を分離しつつも、同じ建物内で共存できる環境を整えることが、より現実的な解決策となる。
職場の中で仕事と生活の場を設けている例としては、社内保育所やチャイルドルーム、朝昼晩と食事ができる企業内食堂がある。また、住居で独立した仕事の場を設けるためのプチリフォーム(部分改装)などがある。
職住隣接というライフスタイルの新たな可能性
「職」と「住」の経済的関係は、時代とともに大きく変化している。個人の働き方や生活様式が多様化する中で、職場と住居の関係も一様ではなくなってきた。
これからは、個人と組織がそれぞれの目的を理解し、双方にとって価値のある関係を築いていく必要がある。そのためには、経済的な視点だけでなく、仕事と生活の質を高める視点から、職と住の最適な関係を見出していくことが重要だろう。
「職住隣接」はワーク・ライフ・バランスを考えるうえで、職住分離、職住近接、職住一体と同様にライフスタイルの1つであり、「人生後半戦のベターライフ」への提言でもある。