「職」と「住」の関係を時間と距離の観点から再考
職と住の位置関係を時間と距離の観点から再考し、人生後半戦における最適な環境を考察してみました。
「職」と「住」の位置関係
「職」と「住」の位置関係には、距離的、時間的、経済的、人間関係の4つの側面がある。この記事では、距離的関係と時間的関係について考えてみる。経済的、人間関係については別記事で改める。
職場と住居の位置関係は、直線距離ではなく実際の移動距離を意味し、時間とは移動に要する所要時間を意味する。移動に要する手段も職場と住居との位置関係によって様々になることは容易に想像がつく。
また、通勤時間の考え方は、自宅から職場への移動のみを対象としている。職場から自宅への帰路については考慮されていないなど、現在の通勤についての考え方は、交通手段や社会事情などの通勤事情に即していない。
職場や住居が移転した場合、距離や時間は変化する。また、交通手段の変化も位置関係に影響を与える。むしろ、現代社会では、職場と住居の位置関係は常に変化することを前提に考えたほうがよい。
職住の時間的関係
職場と住居の位置関係を時間的側面から見ると、より複雑な様相を呈する。かつては、固定的な労働時間が一般的で、都市部での出勤時間の凄まじいラッシュが日常あった。
現在では、かつてより業種と職種が増え、変則的な労働時間も多く存在している。労働時間は、労働基準法で規定されているが、すべてにおいて共通化することは難しい。
また、職場での仕事の手順が変化するのと同様に、住居でのライフスタイルも時代とともに変化している。この両者の変化を理解することが、「職」と「住」の時間的関係を考える上で影響が大きい。
通勤時間は、一般的にドア・ツー・ドアで考えられ、始業前の準備時間も含めて捉えられることが多い。いわゆる移動時間よりも実際の通勤時間は長い。
一方、終業後は個人の自由時間とみなされることが一般的だ。ただし、厳密には終業後も住居に到着するまでは、通勤時間に含めるべきかもしれない。
職住分離と終身雇用の関係性
職場と住居の分離は、高度経済成長期の急激な人口増加と工業化に伴って定着した。同時期に、労働力の安定確保を目的とした終身雇用制度も広まったと考えられる。
加えて、日本独特の主従関係や年功序列などの上下関係の慣例化が、終身雇用の制度化を促したのではないだろうか。そして後を追うようにして法制も整備されてきた。
終身雇用では、長期的な人材育成と計画的な労働力確保が重要であり、職住分離による通勤は手段の一つであった。都市部への人口集中と大規模な職場集中は、この仕組みの産物とも言える。
しかし、この仕組みは時代とともに変化している。職場集中型から分散型への移行が進み、働き方も多様化している。終身雇用は職場集中型には適していたが、分散型になると移動が伴い、適さない場合も発生する。
職場の環境が変わると同様に、住居の環境も変わるので、一概に自宅住居で仕事ができる、できないと判断することはできない。判断の是非よりも検討さえしないことに問題がある。
人生後半戦の「職」と「住」の環境
人生後半戦になると職場の環境が変わったと感じることがしばしばある。什器や設備、同僚の年代も変わってくる。住居の環境も変わり、テレビが置かれている茶の間中心の生活が、家族が顔を合わせることさえ少なくなっている。
それでも1960年代を中心とした高度成長期に形作られた職場と住居の共通のイメージは変わってはいない。また、当時の環境に合わせた制度やルール、特に慣例は今も続いている。
職と住の関係も一様ではなく、地域の特性と人口減少を見据えながら、最適な働く環境と暮らす環境について考えなければならない。
ワークライフ・バランスの重要性は語られても、実施段階では具体性がない場合がある。職と住という環境を見直し、職場と住居の二拠点で仕事と生活をすることと、生活と仕事を二拠点で行うことも考えてもよいのではないだろうか。
多様性(ダイバーシティ)と受容性(インクルージョン)が唱えられている現在において、人生の後半戦という大きな分岐点にある世代こそが、この課題に取り組むべきだろう。