新しい職と住の関係性 ~ 人生後半戦を見据えた職住隣接のすすめ
第2章は職住隣接となる「職住隣接とはなにか」という基礎編についてお話しします。多様化する働き方の中で、人生後半戦に最適な「職住隣接」という新たな選択肢の提案です。
職住分離、職住近接、職住一体の定義と歴史的背景
「職」とは職場すなわち仕事の場、「住」とは住居すなわち生活の場を意味することは説明するまでもないほど、職住という二語はすでに浸透している。
「職住」に続く語句として、分離、近接、一体などがある。それぞれの意味は次のようになる。
- 職住分離:職場と住宅が完全に分離し、通勤という仕事でも生活でもない時間帯が存在する
- 職住近接:職場と住宅が分離しているが、物理的、時間的、経済的距離が近いことを指す
- 職住一体:職場に住む、または住居で働く、物理的、時間的、経済的に同一の場で仕事と生活をする
職住分離について説明する際、近代以前や第二次大戦以前は職住が分離していなかったとよく言われるが、それは必ずしも正しくない。地域や業種、徒弟や丁稚などの制度の有無によっても異なる。
しかし現代のように、郊外から中心部に通勤するようになったのは、公共交通機関が発達し、自動車が普及したことによるので、1970年以降のイメージが強いだろう。
職住近接と職住一体の現代的意味
職住近接とは、近年になって使われだした用語で、仕事場と住居が近く、通勤が距離的に近い、時間的に近い、経済的に近い(徒歩圏)を意味する。ただし、明確な基準があるわけではない。
人口が増加傾向にあった時代は、中心地に職場が存在し、周辺に住居という構造の場合は中心地に住むことが職住近接だった。ところが工場が郊外にできたり、支店や営業所ができると、職場の近くに住むことが職住近接となっている。
職住一体とは、新型コロナで一般的に名前が知られるようになった、在宅ワークや在宅勤務がある。この形態は、自宅(住居)で仕事を行うことを意味し、通信環境が発達したからこそ成せる勤務形態だった。
自宅で働くことを指す職住一体は、個人事業主の場合もあるが、一般的には仕事のヘッドオフィスが別にある場合を指している。ちなみに職場に住むことは職住一体とは言わない。
テクノロジーの発達がもたらした新たな労働環境の問題
職住分離、職住近接、職住一体とは異なる働き方として、ノマドワークやモバイルワークがある。2000年代には、カフェでノートパソコンを使って仕事をしている姿がよく見られた。私もそうだった。
スマホとSNSの登場で、さらに状況が一変した。24時間どこいても仕事に必要な情報は手に入る。作業に設備が必要な場合は、自宅ではできないが、精神的、心理的に落ち着くことはない。
24時間どこにいても情報が手に入るのは、仕事の情報だけではない。プライベートの情報も仕事中であろうが、食事中であろうが遠慮なく届く。旅先にでも電話がかかってくる。
就業規則には、勤務時間以外の仕事の連絡をしてはいけないとは記載されていなかった。つまり、就業規則には違反していないのだから認められるべきだという考えになる。
このような不適切な労働慣行は公私混同にもかかわらず黙認されるようになり、労働環境の悪化につながる要因となった。
人間関係も24時間体制になった。こうなってくると、職住分離、職住近接、職住一体などは関係なかった。常識というよりも良識の範囲を超えているのだ。
職と住は分離すべき
職と住は基本的には分離すべきだというのが私の考えである。
どんなことでも、2つのことを同時に行うことは極めて難しい。同時に行っているようでも、実際には時間差で行っていることがほとんどである。
2つのことを同時に行うことと、2つの結果を同時に得ることは別のことなのだ。
仕事でも生活でも、1つのことに集中して取り組むことが重要である。集中する時間が長ければ、同じ時間でより高い成果を出すことができる。つまり、時間効率が高まるのだ。
集中力を高める環境
仕事と生活の目的は同じでも、目標はそれぞれ異なる。目的は数値化しにくいが、目標は数値化したほうが把握しやすい。時間効率とは、時間に対する目標の達成率といえる。
では、どのようにすれば集中力が高まるのだろうか。まず、物理的環境があげられる。仕事は職場で、生活は住居でというように、それぞれの活動に適した環境で行うことが集中力を高めるのだ。
集中とリラックスは互いに排他的な関係ではなく、むしろ相乗効果をもたらす場合もある。一方で、集中の反対は散漫、リラックスの反対はストレスであり、これらは生産性を低下させる要因となる。
したがって、リラックスすることに集中するという考え方も間違ってはいない。
物理的環境と時間的環境
物理的環境が集中やリラックスに大きな影響を与えることは、多くの人が経験的に知っている。仕事と生活では、求められる集中の質やリラックスの質が異なるため、それぞれに適した環境を整えることが効果的なのだ。
つまり、同じ場所で同じ時間に仕事と生活を短い時間で繰り返すことは、集中するにもリラックスするにも適さない。仕事と生活の環境を分離することで、それぞれの活動に適した環境を作り出し、効率性を高めることができるのである。
集中力を高めるためには、物理的環境の他に時間的環境がある。時間的環境とは、朝方・夜型と言われるように集中しやすい時間帯が人それぞれ異なることを指す。
集中力と休憩の関係
また、集中力が10程度分しか持たない人もいれば、30分、1時間と長時間にわたって集中力を維持できる人もいる。集中力は休憩をはさむことで、トータルの集中時間を長く保つことができる。
集中力に休憩は欠かせないのだ。休憩とはリラックスする疲労を回復させる時間でもあるし、リラックス時間でもある。
つまり、集中するための物理的環境で休憩するよりも、リラックスするための物理的環境が近くにあれば、移動することで、より集中もできるし、よりリラックスもできるはずだ。
それは遠距離の職住分離でも職住一体でも実現は難しい。そして職住近接よりも、より移動しやすい環境構成が「職住隣接」なのである。
人生後半戦になると通勤時に要する体力もなくなってくるし、徐々に集中力を維持することができなくなってくる。人生の転換期にこそ「職住隣接」の環境を整えるべきではないだろうか。