73 人生は短い旅の繰り返し~ベストからベターへ

人生は短い旅の繰り返し~ベストからベターへ

人生には過去と未来がある。現在は過去の終着点なのか、それとも未来への起点となるのかは考え方次第である。あなたが人生を語るときは、どちらの人生だろうか?

人生は時間である

「職住隣接物語」のテーマは「人生後半戦のベターライフストーリー」である。「人生前半戦はベストを目指したけど、人生後半戦はベターライフがよいのでは?」と思うと気が楽になった、私の個人的経験にもとづいている。

人生の前半戦と後半戦は時間軸上では前後に位置する。多くの人が時間軸に沿って人生のイベントを考えてきた。「教育>仕事>引退」の3つのステージが長らく一般的だった。

マネジメントの父と呼ばれたドラッカーは、「仕事」のステージが長くなることで、第二の人生を送る3つの考え方を提示した。(プロフェッショナルの条件 / 2000年)

1つめが転職などによる「文字通りの第二の人生」、2つめは本業以外の仕事を持つ「パラレルキャリア」、3つめが非営利の仕事(第二の生き方)を並行して送るソーシャルアントレプラナー(社会起業家)である。

また、ロンドンビジネススクール教授のグラットンは、前述の3つのステージを直線状ではなく、マルチステージとして捉え、3つのステージを提示した。(Life Shift・ライフシフト / 2016年)

1つめが多様な経験を積む「エクスプローラー(探検者)」、2つめは事業活動を目的とする「インディペンデント・プロデューサー(独立生産者)」、3つめが異なる仕事を並行して行う「ポートフォリオワーカー」である。

これらは仕事の側面から提示された考え方である。私は前記事で述べた通り「職住隣接は『住』が重要」であるので、異なった視点での考えを提示している。

時間軸を区切る3つの軸

人生の時間軸は変えることはできないが、区切りは変えることができる。人生100年も10年で均等に区切れば10回戦になるが、ほとんどの人は均等にはならない。

区切りを異なる軸との交点と考え、例えば、人生後半戦ではたびたび話題になる「お金、健康、人間関係」の3つの軸で区切るというのが職住隣接での考え方である。

このように異なる軸で区切ると人生は「経済(お金)、健康、人間関係」3本の時間軸で考えることになる。時間軸を横軸、異なる区切りを縦軸とすることで過去の人生を振り返ることができる。

これからの人生を同じ軸で区切ってもよいし、別の軸を新たに追加しても、既存の軸を途中で使用しなくてもよい。このように考えると自分の意志で人生を歩んできた時期と、自分の意志とは異なった時期に分類することができる。

私の場合は、何度か健康を損ねたので、その時期は健康レベルと経済レベルが低下状態であった。この時期は新たな人間関係ができることが多かったので、休養期間と称し次の活動期間に備えていた。

前述の第二の人生の送り方とマルチステージの考え方は、私にとっては活動期間の考え方である。人生は活動期間だけでなく、休養期間もあることを認めることでベターライフの考え方を受け入れやすくなる。

人生は小旅行の繰り返し

人生の時間軸を3つの軸で区切り、区切られた期間を高低で表すと緩やかな波のように表すこともできるし、階段状に表すこともできる。このときの高低は自分の状態を表すと同時に生活エネルギーと生存エネルギーの投入量にも違いがある。(生活エネルギーと生存エネルギーは前記事参照

前述の私の健康を損ねた時には、健康レベルは低下していたが、生存エネルギーへの投入量は多かった。仕事をしていなかったので経済レベルが低く、生活エネルギーの投入量は少なかった。

このように考えると、自分がどのような未来を描きたいかが見えてくる。未来に向けて線を延ばしたときに経済レベル、健康レベル、人間関係レベルを高い位置で描くだろうか。それとも、徐々に下降線を辿るように描くだろうか。

またその時の生存エネルギーと生活エネルギーはどのような線を描くだろうか。前記事では人間関係についてのエネルギー消費については触れなかったが、人間関係にもエネルギーが必要である。

人生計画には予測と予想がある。経済、健康、人間関係は比較的数値で計画を立てやすいが、エネルギー消費は未来の自分の姿を描けなければ予想はできない。そして、計画は定期的に見直し、現実との乖離を認識しながら調整しなければならない。

人生は長いと考えても10年一区切りとすれば10回戦であることは既に述べた。私は5年を一区切りにしていたが、最近になってさらに短く3年を一区切りに変えた。「人生は長い旅である」と言われるが、私にとっては「短い旅の繰り返し」になっている。

10年後も未来、明日も未来

私の人生の時間軸は10年区切りから、人生後半戦になって5年区切りに変えた。これを3年区切りに変えたのは健康レベルにより重点を置くことにしたからだ。ここまで読んでいただいて、今まで言っていることと違うのではないかと思った人もいるだろう。

社会的に決められた区切り、成人年齢、年金受給年齢などは遵守しなければならないが、自分の人生の区切りは自分で決めることができる。一度決めたことをベストを尽くせば必ず叶うという考え方から、状況に合わせてすぐに変えるというのがベターライフの考え方である。

「日本の総人口が減少し、高齢化と少子化は進み、生産年齢人口が減少しているのに、生産年齢人口=労働力人口と考え、保険料を徴収し、高齢者の年金を補填している」のも一度決めたら変えないというベストの考え方である。

デジタル社会になりキャッシュレス時代になっても、デジタルを使えない人もいると反対するのではなく、「すべての人がデジタルを使えるように助け合う社会にすること」がベターライフの考え方である。

未来とは予想できない時間軸の先ではなく、予測できる時間軸で未来に向かうこともできる。10年後も未来であれば、5年後も3年後も未来、明日も未来である。私が5年区切りから3年区切りに変えたのは、自分の健康状態を3年先まで見たいからである。

職住隣接は未来ではなく現実

私は過去の記事で「私たちに未来はなくなったのだ」と述べた。これは現実が未来に追いついたことを意味している。すべてが追いついたわけではないが、部分的にでも追いついていることは認めなければならない。

一方で、私は未来に向けての行動を、未来の姿から逆算して考えるべきだとも述べている。追いついているのに、逆算するとは矛盾していないかと思うかもしれない。

これは「未来の姿を現実に投影して行動する」ということである。言いかえれば、未来から逆算して行うのではなく、未来と現実が一体になっている転換点、「ティッピング・ポイント(Tipping Point)」が現在なのである。

職住隣接は、かつては、私の健康状態にとって都合がよいだけのライフスタイルだった。そして、健康レベルが回復して、社会の常識という中で働き、暮らすことで、経済レベルを上げた。その後、再び職住隣接を未来の自分のライフスタイルとして位置づけた。

それが今、現実になっている。未来は近づいていくのではなく、やってくるのかもしれない。