71 職住隣接で変わる職業観~4つの職種と適した仕事環境

職住隣接で変わる職業観~4つの職種と適した仕事環境

職住隣接に適した仕事を4つの職種に分類して考えてみました。プロフェッショナル、エキスパート、スペシャリスト、そしてタイムワーカー、あなたに当てはまるのは?

未来とは何年後のことだろうか?

現在から見て、これから訪れる時間はすべて未来になる。明日も未来、1年後も10年後も未来である。ただ、人それぞれ未来が何年後なのかというイメージが異なるので、「職住隣接の未来」は2045年と想定する。

第二次世界大戦が終わった1945年から100年後が2045年であり、「切りがいい」という理由だけである。正確には1951年のサンフランシスコ平和条約で日本が独立したが、この記事を書いている2025年から20年後、これまた切りがいい。そのとき、あなたは何歳になっているだろうか。

これまでの13章70記事では、過去から現在にかけて、私の経験と一般的な考えを交えながら「職住隣接」についてお話ししてきた。今から20年後に「職住隣接」がどう変わっているか、予測と予想を交えてお話しするのが第14章である。

「未来を予測する、予想する」の違いは、番外編の記事で「3つのお約束」として記しているので一読していただきたい。予測と予想の違い、実数と割合の違い、量と質(ラベル)の違いを意識していただければ、より実現性の高い未来が見えてくるかもしれない。

場所と時間と在職の関係とは

「職住隣接」の「職」とは仕事のことであり、自宅に独立したスペース(場所)を設け、仕事時間と生活時間を分離し、人間関係の基本は非対面で行うことを基本にした働き方であり、暮らし方である。

「職住隣接」のメリットを「通勤時間とエネルギーの削減」と説明するのは簡単ではあるが、デメリットもある。それは「仕事環境の整備とコミュニケーション」に新たな時間とエネルギーを要するからである。

このデメリットを小さくするには「組織」と「集団」の違いから理解しなければならない。複数の人が1ヵ所に集まることが「集団」であり、ここに役割を与え連携するのが「組織」である。

人間が最初に経験する集団が家族であり、次に学校、そして仕事の集団となる。この間に広く社会集団との関係もできる。家族と学校も組織として成り立っているが、その基本となるのは平等である。仕事と社会は公平な集団でより組織性が強い。

「職住隣接」では、仕事は公平に組織的に働き、生活は平等に集団として暮らすことになる。これからの職住隣接は、在宅ワークの延長ではなく、職場と同じように在職している意識を持つ必要がある。

そのためには、既存の就業規則に働き方を合わせるのではなく、働き方の実態に合わせて就業規則を作り変えなければならない。そして就業規則には、自宅在職、現場在職、職場在職など、場所と時間による在職の可否を示すように検討しなければならない。

職住隣接の前に「職」のあり方が変わる

「職住隣接」の「職」とは仕事のことであると冒頭で述べたが、仕事には職業と労働という2つの側面がある。職業は業種、職種で大まかなことがわかるが、まれに人間性にまで及ぶこともある。

労働は、就業時間、賃金、雇用安定性などを表すことが多い。役職なども気にする人がいるが、大会社でも零細会社でも、規模にかかわらず社長と名乗れば、イメージだけが先行することでもわかる。

仕事は4つの職種に分類されつつある。プロフェッショナル、エキスパート、スペシャリスト、タイムワーカーである。これらの分類は「知識、技術、経験」の3つの要素による。

「知識、技術、経験」のすべてを兼ね備えるのがプロフェッショナル、「技術、経験」を持ち合わせるのが業界でのエキスパート、「知識」が豊富なスペシャリスト、いずれも持ち合わせないのがタイムワーカーである。

各要素のレベルは高いに越したことはないが、その範囲は決して広くないというのが、これからの職種の分類になる。人間性はすべての職種で必要になるが、AIの登場により、人間性は後回しになるだろう。

このような職種の分類は1人が1つの職種に固定されないことを意味している。複数の職種を持つマルチワーカーと1つの職種を続けるトラディショナルワーカーが共存することになる。

リンダ・グラットン教授が「LIFE SHIFT」の中で示しているポートフォリオワーカーとも似ている。グラットン教授が前著の「WORK SHIFT」で2025年の働き方について述べているのも興味深い。

職住隣接はスペシャリストから

人生後半戦を迎えたら、過去の自分のスキルやキャリアを見直し、好きな仕事を選ぶ、または得意な仕事を選ぶことを推奨されているが、これらは今までの時代の環境下では可能だったかもしれない。

現在はVUCAの時代と呼ばれ、日本では人口減少と高齢化、少子化が進行する状況である。さらにAIが発達し知識の集積が行なわれ、精巧なロボットが人間が行なう作業レベルにまで到達しようとしている。

私たちに未来はなくなったのだ。私たちが考えていた未来は現在に追いつき、追い越そうとしている。つまり、新しい時代の仕事や生活の環境は、過去に想定した環境とは異なっていることが前提になる。

かつてのタイムワーカーはAIとロボットの発達によって、その役割は代替され減少していくことになるだろう。このような未来の環境で、単に好きと得意だけでは労働力としての価値を保つことはできない。

人間に求められるのは、人間にしかできないことと言われるが、その最初の段階が、狭い範囲でもよいのでスペシャリストになることである。同じ知識でも、知識の組み立て方が異なれば、専門性が異なるスペシャリストになることは可能である。

AIは人間に比べて豊富な知識を持ち、知識の組み立て方も自由自在にできるが、どの組み立て方を選ぶかは人間である。それぞれの人間の個性に合わせて選ぶには、個性を理解することが必要になる。

AIスペシャリストと人間スペシャリストのコラボが、これからの時代の大きなテーマとなるに違いない。

エキスパートとプロフェッショナルの存在

職住隣接の環境ではスペシャリストにはなれても、知識が活かされる現場を直接見聞きしているわけでもないし、経験することはできない。現場がある仕事、販売や医療、災害対応などは知識だけでは対応できない。

現場で高レベルの仕事を行う人をエキスパートという。業界や業種、特定の条件の下で、経験を積みながら同時に知識を身に付けるのがエキスパートの特徴であり、能力でもある。

日本にはエキスパートが多い。それは終身雇用の賜物だとも言える。特定の条件の下での知識は汎用的ではない。いわゆる業界用語や業界知識は他の条件下では応用が利かないこともある。

プロフェッショナルは、一般的かつ汎用的な知識を持ちながら、どのような条件下でも仕事を行う、いわばスーパーエキスパートだと私は考えている。

もちろん万能のプロフェッショナルなどはいないが、スペシャリスト、エキスパート、プロフェッショナルの違いを理解することで、仕事の分野は違ってもその仕事に対する情熱が伝わってくる。

タイムワーカーで興味を持った知識をスペシャリストとして醸成し、タイムワーカーで得た経験を活かしてエキスパートとして技術を磨くことができる。ただ、プロフェッショナルになるには情熱という人間的な要素が必要になる。

これから、AIとロボットがますます発達すると同時に普及しても、この情熱という人間的な要素は身に付けられない。

職住隣接と「職」の未来

自宅で行う仕事には限界がある。現場がある仕事を自宅をベースに行うことは可能だが、効率性を考えると現場に近いほうが良い。または、自宅の立地が現場に近いことが条件となる。

職住隣接は自宅内に独立したスペースを設けるので、一般的な在宅ワークのイメージよりも仕事に集中でき、プライバシーやセキュリティーも高めることができる。

では、仕事を行う独立したスペースを現場として考えることはできないだろうか。このような考えを実現するためには、今までの通勤や自分の席、職場什器の配置、縦割り組織、コミュニケーションなどの固定概念を変えていく必要がある。

実際に通勤は在宅ワークに、自分の席はフリーアドレスに、縦割り組織はプロジェクト単位にと多くのことが変化している。ここで重要なのは、終身雇用時代には当たり前だった「長期的に人を育てるという社内教育」がいつのまにか経済合理性によって失われてしまったことだ。

もし、未来に向けての社内教育を行うのであれば、終身雇用を抜きにして、就業環境の変化の一環として学習環境と研究環境を備えるべきではないだろうか。講師はAI主導でもよいし、スペシャリスト養成ならAIのほうが適任かもしれない。

その結果、職住隣接での「職」の環境の準備も行え、自宅在職組と職場在職組との間をAIが取り持つことで理想的な就業環境ができるのではないだろうか。