シェアハウスに学ぶ~職住隣接のルールと人間関係

シェアハウスに学ぶ~職住隣接のルールと人間関係

シェアハウスにヒントあり!「共有」の考え方を職住隣接に活かす方法とは?
伝統的な住まい文化との融合で、仕事と生活の質を高める方法を紹介します。

シェアの意味とその捉え方

「職住隣接」というライフスタイルはシェアハウスの考え方をヒントにしている。

シェア(share)という言葉は、私たちの日常生活で様々な場面で使用されている。その基本的な意味は「共同、共有、共用」として使われているが、共有は共同所有、共用とは共同利用を意味する。

この曖昧性が「シェア」という用語が人によって異なる意味で使われ、解釈も異なる可能性がある。シェアハウスを例にとってみると次のようになる。

  • 個室は、場所的にも時間的にも専有であり、専用スペースである
  • リビングは、場所的にも時間的にも共有であり、共用スペースである
  • トイレや風呂は、場所的には共用スペースだが、時間的には専有スペースとなる

つまり、専有と専用の意味を正確に理解しようと思うと、場所と時間によって異なった意味を持つことがわかる。

「共用」は場所的にも時間的にオープンな性質を持ち、プライバシー保護の基準は低く、モラルを守ることが要求される。

一方、「共有」は場所と時間によっては、クローズドな性質を持ち、プライバシーが重視され、モラルよりもルールを守ることが要求される。

「シェア」とは専有(owned)や専用(private)を理解することによって、より明確に理解できる。この違いを理解することは、特に「職住隣接」のような仕事と生活を自宅で行うときには欠かせない。

日本の住まい文化と職住隣接への応用

日本の伝統的な住まい文化の特徴は、1つの空間で複数の使い方を可能にする合理性にある。同じ空間が時と場合に応じて専有空間にも共有空間にもなり得る柔軟性を持っている。

例えば、昼間は共有の場となっていた部屋は、夜に個人の寝室として専有される。この考え方は、限られた空間を最大限に活用する知恵から生まれたものだ。

職住隣接は、この日本の伝統的な空間利用の考え方を現代的に解釈し、発展させている。空間を、場所と時間によって「専有、共有、専用、共用」の意味を持たせた上で分離している。

この考え方によって、時間的なシェアと場所的なシェアを組み合わせたライフスタイルを実現している。例えば、両親の介護を行っていた時には、仕事スペースは私専用で、生活スペースは両親の介護専用であり、家事のスペースでもあった。

両者の根本的な考え方は同じだが、重点の置き方に違いがある。伝統的な日本の住まい方が共有と共用を優先するのに対し、職住隣接では専有と専用を優先する。これは現代のライフスタイルやワークスタイルの変化に対応したものだ。

このように専用スペースを明確にすることで、場所と時間の切り替えが心理的な切り替えになり、目的意識をもって時間を過ごすことができた。

職住隣接は空間の多機能性を保ちながら、仕事と生活の境界をより明確にし、それぞれの質を高めることを目指すことが可能になると考えている。

ルール、マナー、モラルで線引きする

仕事と生活を同じ住まいの中で行う職住隣接では、場所と時間の分離だけでなく、ルール、マナー、モラルの違いを理解することが、快適に暮らす鍵となる。

職住隣接のルールとは、自宅内での決まりごとであり、守らなければ罰則が伴うということはない。仕事と生活で共通するルールよりも、異なるルールを家族や来訪者にも理解してもらうためのルールである。主に場所の共用や時間の共有に関わるルールになる。

マナーとは社会的な慣習や礼儀作法を指し、特にビジネスマナーと生活マナーの違いがあるので、パターン化したマナーを家族に理解してもらうことに気を付けた。挨拶と言葉づかいが主である。

モラルは個人の内面的な倫理観や道徳観を意味し、自発的に守るべき価値基準である。これは自宅内ということではなく、モラル教育を意識した程度である。

ひとつひとつは、理屈では理解できるのだが、実践となるとうまく言葉や態度に表せない。そこで、場所と場合に分けて、10個ほどから始め、現在では20個ほどで落ち着いている。

実例は仕事内容や家族の構成や状況によって全く違う。どのような決まり事を作ってもよいのだが、大切なことは、それが「ルール、マナー、モラル」のどれに当たるのかを考えることである。

決まり事を考えるときは「場所」を意識して考えることであり、最小限のルールで管理する事がポイントになる。例えば、「玄関には何も置かない」というルールは、何も置かなければルールを増やす必要がなくなるようにである。

シェアハウスからわかる職住隣接というライフスタイル

職住隣接は「仕事と生活を場所と時間に分け、自宅で実現するライフスタイル」である。これはシェアハウスの考え方と多くの共通点を持つ一方で、空間の区分け、人間関係の前提、成功の条件という3つの着目すべき違いがある。

区分けの違い
シェアハウスでは、個室という専有空間と、リビングなどの共用空間が物理的に区分けされている。この区分けは、プライバシーを確保しながらも、共同生活のメリットを享受するための仕組みである。
職住隣接も同様に、仕事スペースと生活スペースを物理的に区分けすることで、それぞれの活動に最適な環境を作り出す。

人間関係の違い
シェアハウスが複数の人間関係を前提としているのに対し、職住隣接は同一人物の異なる役割や関係性を前提としている点が大きく異なる。
シェアハウスでは住人同士の関係性が重要だが、職住隣接では仕事上の自分と私生活の自分という側面の切り替えが重要になる。

関係性の違い
シェアハウスでは居住者間のコミュニケーションやルール設定が成功の鍵となる。一方、職住隣接では仕事上と私生活の人間関係を充実させることにある。
シェアハウスが複数の人との横断的な関係であるのに対し、職住隣接は仕事と生活で異なる人間関係を縦断的に保つことが目的になる。

シェアハウスが教えてくれるのは、共同生活においてルールとマナーが重要であるということだけでなく、異なる背景を持つ人々が共存するための工夫である。職住隣接もまた、仕事と生活という異なる文脈が共存するための工夫であり、その意味で両者は共通の知恵を共有している。

職住隣接が提案する新しい人間関係のあり方

職住隣接は単に仕事と生活の場所を自宅にするだけでなく、人間関係のあり方にも新たな視点を提供する。従来の仕事と生活の分離は人間関係も分離することを意味していたが、職住隣接では両者の境界線上で新しい関係性が生まれることに気づく。

職住隣接では、仕事上の人間関係と私生活の人間関係を明確に区別することから始まる。この区別は役割の違いだけでなく、コミュニケーション方法や距離感にも及ぶ。しかし、その真価は両方の世界の良さを活かした新しい関係性を構築できる点にある。

日本の「気づかい」という文化は、職住隣接において重要な役割を果たす。この「気づかい」は単なるルールやマナーではなく、「和」の精神に根ざしたモラルの一形態である。

職住隣接では、この「気づかい」を通じて、仕事と生活の境界線を柔軟に管理しながら、効率性と情緒性、個人と集団、仕事と生活といった相反する価値観を調和させることができる。