多拠点生活の理想と現実~自己管理と計画性が成功のカギ


多拠点生活は、仕事と暮らしを分離し、新しい環境を楽しむ選択肢です。
複数の家を持つ生活の理想と現実、そして人生後半戦の計画とは?

「拠点」の意味とは
「持ち家か、賃貸か」「都市部か、郊外か」など、住まいの選択には人それぞれこだわりや基準がある。この二項対立の考え方から、両方を得るライフスタイルの提案に「多拠点生活」がある。
「拠点」という考え方には、居住する地域と目的に応じた場所という2つの視点がある。職住隣接は自宅に独立した仕事と生活の場所を有するライフスタイルである。
一方、職住分離では同じ自宅と職場という2つの拠点を有するライフスタイルになる。このように考えると、多くの人がすでに複数の拠点を利用していると言える。
このように考えると多くの人がすでに多拠点生活を送っていることになるのだが、多拠点生活というライフスタイルでは、自宅を含めてすべての拠点を意味する場合もある。
日本では住民基本台帳法により「生活の拠点」を登録することが定められており、法的には住民票に世帯として登録している住まいが「自宅」となる。
「多拠点生活」とは生活拠点を複数もつライフスタイルで仕事の拠点は含まない。また、法的な生活拠点を「自宅」とし、他の生活拠点を単に「拠点」と称するという定義がわかりやすいだろう。
この定義で「自宅と拠点」を「持ち家か、賃貸か」「都市部か、郊外か」とそれぞれ考えることで、多拠点生活の特徴を理解しやすくなる。
多拠点での「生活と仕事」のバランス
自宅とは別に生活の拠点を持つためには、生活と仕事の分離を行うことを前提にして考えるとわかりやすい。仕事は仕事の拠点で完結すれば、生活の拠点だけを複数持つことになり、視点を変えれば旅行や別荘暮らしと同じく余暇の延長になる。
しかし、拠点での生活が長期化すれば、生活の拠点から仕事の拠点に通勤することになりかねない。自宅以外で仕事を行うには、在宅勤務と同様に仕事を行う環境を整えなければならない。
自宅で生活と仕事を両立させている場合、多拠点生活では各拠点に同様の環境を整える必要がある。このような状況では、拠点は余暇の延長ではなく、場所を選ばずに仕事が可能なモバイルワークに近くなる。
このことが意味するのは、自宅や拠点にかかわらず生活と仕事を自己管理するノウハウが必要になる。これを怠ると、多拠点生活はむしろ負担となる可能性が高い。
多拠点生活のメリットとデメリットは相反する関係にある。生活と仕事でのメリットとデメリットだけではなく、同じ事象がある人にとってはメリットでも、他の人にとってはデメリットになる場合もある。
メリットとデメリットの対応方法には、双方のバランスを取るか、トレードオフを取るかは、人それぞれが置かれている状況によるので、柔軟に考えるべきである。
多拠点生活のための4つの視点
生活の拠点を複数持つことでのメリットとデメリットには次のようなことがある。都市部と地方部(郊外、過疎地)という2つの視点で比べてみる。
1)環境の多様性
都市部では利便性が高く、地方部では自然環境や静かな暮らしが得られる。
それぞれの環境には特性があり、新しい体験や視点を得る機会となる。
異なる環境に適応するためには、環境に合った生活用品の調達が必要になる。
2)経済的な視点
複数の生活の拠点を維持するには個別にコストがかかるため、トータルで管理する必要がある。
拠点を利用しないときでもコストが発生するので、レンタルなどの利用が課題となる。
地域ごとの価格差が割安な消費や重複する消費につながる。
3)人間関係の多様性
都市部では距離感を重視した関係性、地方部では親密度を重視した関係性が一般的である。
人間関係は個人の特性にもよるが、それぞれの地域で信頼関係を築く努力が必要になる。
不在時の防災・防犯対応は自分の問題だけでなく地域の課題となることもある。
4)余暇の過ごし方との違い
短期滞在よりも長期滞在をすることで日常生活に変化を取り入れられることが旅行との違いである。
自宅と拠点間の移動、メンテナンスを含めた保全管理の負担やリスクも考慮しなければならない。
余暇は非日常でのリフレッシュが目的だが、多拠点生活は日常が複数あるライフスタイルである。
自己管理と計画性
生活の拠点を複数持つためには、自己管理能力と計画性が欠かせない。仕事ではこれらの能力が当然のように求められるが、生活面では単一拠点の場合しか想定されていないことが多いため、多拠点生活では特に意識する必要がある。
自己管理には、拠点自体の維持管理だけでなく、コスト、時間、健康状態の管理も含まれる。さらに、多拠点生活では心理的にメリットもデメリットもある。
多拠点生活では天候に左右されることが多く、すでに支払った費用を「埋没費用」として割り切れず、「もったいない」と感じてしまうことが心理的なストレスになってしまう場合がある。
また、初期の計画に固執しすぎると、多拠点生活が負担になっても続けてしまう場合がある。人生後半戦では、ストレスが健康や認知機能に影響を及ぼすこともある。柔軟な見直しや受け入れるという心理的余裕も大切である。
なにより健康不安を抱えると多拠点生活を維持することは難しくなる。自分自身が介護状態になった場合は、否が応でも多拠点生活に終止符を打たなければならない。このように考えると、多拠点生活は期限付きの計画を立てることが望ましい。
そして、困ったときに頼りになるのが、多拠点生活を行っている先住者の存在である。そのような人がいなければ、拠点の役所から得ることもできる。それでも情報が得られない場合、その地域は多拠点生活には適していない可能性が高い。
期間限定での多拠点生活
多拠点生活は住まい方の選択肢として注目されているが、私は多拠点生活を否定するつもりはない。むしろ、若いころのように多くの場所を訪れる旅行よりも、1つの場所で「暮らすように旅するスタイル」を選ぶようになった。
私自身も多拠点生活を経験したことがある。しかし、大病をきっかけに職住隣接へと切り替えた。そしていつかは、自宅と介護施設という多拠点生活になるかもしれない。人生後半戦では、健康状態や環境の変化に応じて住まい方を見直す柔軟性が必要である。
暮らしを充実させる方法は人それぞれであり、その中の1つとして期間限定の多拠点生活を考えてみてはどうだろうか。
人生後半戦では、住まい方そのものが人生設計の一部となる。自分らしい暮らし方を見つけるために、多拠点生活という選択肢も視野に入れてみてほしい。
