地域で変わる暮らし方~都市部・郊外・過疎地と職住隣接


都市部、郊外、過疎地…あなたに合う職住隣接の形はどこにある?
地域ごとのメリット・デメリットを知り、これからのの働き方と住まい方のヒントです。

日本の地域性とは
新型コロナ禍前は働き方改革の一環であった在宅ワークも、現在では新しい働き方として認識を深め、ライフスタイルの1つとして認められるようになった。
働き方には人手を中心とした労働集約型、機械や設備を活用した資本集約型、これらを基盤とした知識集約型がある。
現在の日本では第三次産業が70%以上を占めているが、その中で知識集約型として独立している産業の割合は依然として小さい。
日本の産業に地域性があるのは、日本の風土と歴史によるところが大きい。豊かな自然環境に恵まれている一方で、自然災害も多い日本では、地域ごとの特性に適応した産業を行う必要があった。
地理的にも平野部が少なく、土地を必要とする産業形態や住宅地に適した地域は限られている。その結果、現在では「都市部、郊外、過疎地」といった人口の偏在が顕著になっている。
このような条件の下で、日本は交通や物流、通信といった社会基盤を発展させることで先進国としての地位を築いてきた。
しかし、かつての産業基盤のままでは、高齢社会が続く近未来の日本が先進国として発展し続けることが難しくなっている。
近未来の日本から現在を俯瞰すると、産業や地域性という水平人口の偏在だけでなく、年代による垂直人口の偏在を考慮した働き方や暮らし方にも目を向ける必要がある。
どのような産業や地域に属していても、自分の能力を最大限発揮できる仕事に就きながら、快適な暮らしを実現する視点を持たなければならない。
都市部・郊外・過疎地それぞれの魅力と課題
日本国内では、地域ごとに働き方や暮らし方が異なり、それぞれの特性を理解することが職住隣接を考える上で欠かせない。
都市部は知識経済の中心地として多様な産業が集積している。交通網や通信インフラが整備されており、利便性が高い一方、生活コストの高さや居住空間の制約、人口密集によるストレスといった課題を抱えている。また、賃金の高さや職業選択の幅広さといった経済的要因が、都市部への人口集中を促している。
郊外は自然環境に恵まれ、広い居住空間を確保しやすい。リモートワークの普及により通勤頻度が減少し、郊外での生活を選ぶ人も増加している。ただし、自動車への依存や交通渋滞といった問題があり、都市部と比べると利便性に劣る部分もある。さらに、高齢化が進む中で地域コミュニティへの関わりが負担となるケースも見られる。
過疎地では豊かな自然環境と広大な土地を活かした静かな暮らしが可能である。地域資源を活用した働き方や地域活性化への貢献という可能性もある一方、公共サービスやインフラ整備の不足が課題となっている。医療機関や教育施設へのアクセスが難しい場合も多く、通信環境や交通アクセスにも改善の余地が残されている。
これらの地域ごとの特性は、それぞれ異なる働き方や暮らし方を生み出している。
地域性のメリットはデメリットになる
それぞれの地域にはメリットとデメリットがある。都市部に人口が集中していることから、都市部のメリットがデメリットを上回ることは想像に難くない。地域性のメリットからの視点は次のようになる。
都市部:利便性と多様性
交通網や商業施設が充実しており、医療機関や介護施設へのアクセスが良好である。多様な文化的活動やサービスが利用できるため、暮らしの利便性は高い。職業の選択の幅も広く、賃金も高い。人口が多く、コミュニティの選択やコミュニケーションも活発に行える。防犯や災害対策など、公的な行政サービスも整っている。
郊外:生活環境の快適性
住宅地としての自然環境、商業施設に恵まれ、交通網や流通網の範囲にあって、生活物資の調達や移動には事欠かない。地域コミュニティの中に医療、介護、福祉、教育施設なども整っている。昼間と夜間での人口に差はあるが、定着人口によって行政サービスも維持されている。防犯や災害については、行政サービスとの協力によって行われる。
過疎地:静かな暮らしと自己充足
自然環境と静かな暮らしが得られるのが最大のメリットとなる。最低限のインフラや公的サービスはあるが、自己充足が必要となるが、時間を気にせずDIYを行うには適している。物資の蓄積、自家用車の利用、医療や介護、教育などの公的サービスには自らアクセスしなければならないが、頻度が少なければ大きな問題にはならない。自然災害への対策は自己責任になる。
このように地域性によるメリットは、他の地域ではデメリットになる。メリットとデメリットのバランスをとるか、トレードオフを行うかは個人の判断による。
地域に捉われない暮らしのために
現状維持で得られる地域ごとのメリットをそのまま活かしながら、デメリットを解消するには、3つの準備体制を整える必要がある。
1つめは情報にアクセスする環境の整備、2つめは移動手段の確保、3つめは生活物資の調達方法である。これらを整えることで、「安心、安全、安定」を基盤とした暮らしを実現できる。
情報へのアクセス
地域情報は自治体やインフラ管理企業から発信されているが、それを受け身で待つだけではなく、自らアクセスする方法を備える必要がある。有線・無線の通信インフラを整え、操作スキルを身につけることで、行政サービスや医療、福祉へのアクセスが容易になる。
移動手段の確保
移動手段は通常時と緊急時の両方で確保しておくべきである。通常時は時間、コスト、体力のバランスで選択すれば良いが、緊急時には迅速性を重視した移動方法が求められる。公共交通、自力移動の両方を考慮しておく必要がある。
生活物資の調達
生活物資の調達は、必要な物資と備蓄すべき物資を分類しておくことが基本となる。地域情報や移動手段の状況に応じて効率的な調達方法を選び、自ら調達に出向くだけでなく、デリバリー(配達)を活用して負担を軽減する。
これらを実現するためには技術的な対応だけでなく、コミュニケーション能力や優先順位を決める力も必要になる。日常的な準備を怠らず、自分自身に最適な暮らし方を築くことが求められる。
未来に向けての暮らし方
日本では地域によって「安心、安全、安定」の意味が変わってくる。さらに予測不能な時代と言われている現在において、これらを恒久的に望むことは難しいかもしれない。
過去の成功や平和が徐々に変化している現実を受け入れることも考えなければならない。日本全体ではなく個々の地域で異なる課題や変化が生じていることがわかる。
特に暮らしの面では、多少の変動はあっても「安心、安全、安定」が続いていると考えられていた。一方で、未来に向けてはどうだろうか。
現在の暮らし方が未来に与える影響という視点を持つことも必要である。SDGs(持続可能な開発目標)は世界的な取り組みではあるが、それを実現するには個々人の行動を起こさなければならない。
日本の暮らしは、他国に比べればSDGsに近いかもしれないが、依然として過去を懐かしみ、現状維持を目標としているように感じる。このような固定観念から脱するためには、日常の暮らしから変えていき、働きやすい環境をつくるためにも職住隣接は有効な考え方になるだろう。
