住まい選びの基準~持ち家と賃貸、人生後半戦の選択

住まい選びの基準~持ち家と賃貸、人生後半戦の選択

持ち家か賃貸か?、人生後半戦の住まい選びで、資産と生活のバランスとは?
ライフステージの変化を踏まえ、住まいの選び方の基準を考えます。

人生後半戦に最適の住まいを考える

人生後半戦を迎える多くの人は、すでに住まいを選び生活を送っているだろう。住まいの選び方は、寿命や労働寿命が延びた現代では、「持ち家か賃貸か」という従来の二択だけでは十分ではない。

リンダ・グラットン氏が提唱する人生100年時代では、「教育-勤労-引退」という単線的なステージから複数のステージを繰り返すマルチステージへと移行している。同様に、住まい選びも中古住宅やシニアマンションなど、多様な選択肢を視野に入れる必要がある。

一方で、人生後半戦になるほど環境変化への対応が難しくなる。住まいは老朽化し、高齢を理由に転居が困難になるケースも増えている。終の棲家を70代までに決めることは、自分自身の安定した暮らしだけでなく、社会全体の安定にも寄与する課題となる。

資産か負債かという収支の視点

持ち家は資産として捉えられることが多い一方で、その維持には住宅ローンやメンテナンス費用など継続的な負担が伴うため、一部では負債とも言える側面を持つ。ロバート・キヨサキ氏によれば、「ポケットからお金を奪うもの」は負債とされており、この視点から見ると持ち家には慎重な判断が求められる。

「住まい」を「住宅」と「土地」に分けて考えると、それぞれ異なる性質を持つ。住宅は時間とともに劣化し価値が下落するためメンテナンスが欠かせない。一方で土地は都市部では価値上昇の可能性もあるものの、郊外や過疎地では逆に下落する場合もあり、その立地条件によって大きく異なる。

また賃貸の場合も更新時には更新費用や賃料改定など継続的な支出要素が発生するため、一概に負担軽減とは言えない。ただし、「自分に適した環境」を得るという観点から見ると、それぞれ異なる形で投資として捉えられる可能性もある。

固定資産への投資とは一般的には保有価値よりも売却価値や運用価値を重視する。しかし、「自分自身への投資」や「同居する人への投資」という観点から見ると、自宅そのものは単なる経済的な収支以上に、自分や家族の日常生活を支える基盤として重要な役割を果たす。

人生後半戦では、この経済的側面だけでなく、自分自身や家族にどれほど良い影響を与えるかという視点から住まいの価値を判断することが求められるだろう。

ライフステージ変化と住まい選び方

人生100年時代がマルチステージ化する中、それぞれのライフステージに応じた住まい方が求められるようになる。住まいは単なる居住空間ではなく、人生の変化に対応できる柔軟性を備えるべきである。

賃貸の場合は空間変更が難しいため、転居によって対応することになる。その際には転居費用や新たな住まいへの入居費用が発生する。一方で持ち家の場合は空間変更は可能であるが、リノベーション費用や当初の設計に変更の余地を含めておく必要がある。それが無理であれば転居も考えなければならないだろう。

代表的な3つのライフステージについて考えてみる。

【持ち家の場合】
子育て期:家族が増え、子供の成長に伴い部屋を増やすなど、家族構成に応じた空間設計を行う。
両親の介護期:両親と同居する場合、介護に適したバリアフリーなど設備への変更が必要になる。
自分の高齢期:身体的不自由さのカバーや軽度認知症対策を施し、自立可能な環境を整える。

【賃貸の場合】
子育て期:必要な部屋数や環境に応じて転居を行うことで対応する。
両親の介護期:賃貸物件で介護対応は現実的に難しいため、施設介護を視野に入れる。
自分の高齢期:シニア対応の物件は存在するが、入居資格や費用など条件を満たす必要がある。

寿命が延び、マルチステージ化することでライフスタイルは変化し、それに伴う費用も発生する。自分自身が描くライフプランに合わせた情報収集は欠かせない。

住まいは一度入居してしまえばその後継続するだけと考えるのは早計であり、常にメンテナンスと費用(コスト)、情報収集を怠らない姿勢が求められる。

所属する組織の寿命とライフステージ

ドラッカーは「知識労働者の平均寿命と労働寿命が伸びる一方で、組織の平均寿命は短くなった」と指摘している。この変化は、住まい選びにも大きな影響を与える。

日本では「就職」よりも「就社」という考え方が根強く残っているため、多くの人が勤務先のワークスタイルに合わせて住まいを選ぶ傾向がある。しかし、組織の寿命が短くなった現代では、この選択がリスクを伴う場合もある。

持ち家は長期的な安定を前提としているため、属する組織が衰退したり倒産した場合、新たな職場への通勤や転居が必要になることがある。特に住宅ローンが残っている場合、その負担がリスクとなる。

賃貸はライフスタイルや勤務先の変化に対する柔軟性が高く、新しい職場への転居も容易である。ただし、生涯にわたる家賃負担が大きくなる可能性があるため、長期的な資産形成という観点ではデメリットとなる。

織寿命が労働寿命より短い現代では、自分自身のキャリア寿命を継続できる住まい方を選択することが求められる。その一つの方法として、職住隣接はキャリア維持に適したライフスタイルと言える。

職住隣接では、自宅内で仕事場と生活空間を分離しながら柔軟性を確保することを前提としている。この環境は、キャリアを維持するための一時的な避難場所としてのシェルターとしても活用できる。

リモートワークや副業など、多様な働き方に対応しやすい環境を整えることで、組織に依存しない働き方を実現できる可能性も広がり、不確実性の高い時代にも適応できる選択肢を得られるだろう。

現代における住まい選びでは、単なる勤務先との距離だけでなく、自分自身のキャリア設計やライフステージ全体を見据えた柔軟な判断が必要となっている。

最適な選択とは

持ち家と賃貸、それぞれの選択肢には固有の特性がある。人生後半戦においては、これまでの経験や資産状況、今後のライフプランを踏まえて選択しなければならない。

人生後半戦における住まい選択の基準には、「健康と安全、経済的安定、人間的つながり」の3つがある。
1️⃣「健康と安全」とは、 身体機能の変化を見据え、住まいを安心できる最適の場所とする。
2️⃣「経済的安定」とは、 退職後の収入減少を見据え、住居費の長期的な負担を計算する。
3️⃣「人間的なつながり」とは、介護する側として、介護される側としての住まいを意味する。

人生後半戦では、住まいを「資産」と「生活の場」という二つの側面から考える必要がある。資産としての側面では、持ち家は相続や資産活用の選択肢となるが、維持管理コストも考慮すべきである。

生活の場としての側面では、自分らしい暮らしを実現できる環境が重要であり、それは持ち家でも賃貸でも実現可能である。最終的には、自身の価値観、健康状態、経済状況、そして将来設計に基づいた総合的な判断が求められる。

職住隣接というライフスタイルを選択する場合、単に住まいの所有形態だけでなく、その空間が仕事と生活の両面で、肉体的、精神的、心理的に、どのように効果があるかを考えてみてはどうだろうか。