54 勤務形態と職住隣接 ~ 空間・時間・人間関係を活かした働き方


転職、退職の理由で最も多いのが人間関係、次が労働時間です。続く低賃金は人間関係と労働時間との見合いで割に合わないということでしょうか。

仕事と働き方
私たちは「仕事をする」と「働く」を同じ意味で使うことが多い。社会的には「仕事」は生計を立てるための職業であり、社会との関係性を意味する。「働く」は必ずしも生計や社会のためとは限らない。
仕事を中心にして考えると、どんな仕事をしたいか(What)、どのように仕事をしたいか(HOW)となり、事業形態や契約形態から仕事を選ぶことになる。
これらは日々考えること(ビジョン)であり、実際に仕事を選ぶ段階(アクション)になると、仕事内容を問わず、仕事の開始から終了までの具体的な事項まで考えなければならない。これが勤務形態になる。
勤務形態は事業形態や契約形態で決められるという考え方は、事業主(雇用する側)が決めるのが一般的かのように考えられている。これは従業者側が雇用関係を事業者との上下関係をそのまま受け入れているに過ぎない。
事業契約であれば原則的には対等の契約である。実際には、発注先か受注先が契約書を用意して契約を勧める。どちらか片方が契約の主導権を握るとすれば、契約書を作成する側になる。
勤務形態は常に受け入れるものだという考え方が定着しているのかもしれない。職住隣接では勤務形態は自分で決め、意図にそぐわないことは必要に応じて交渉するという考え方をしている。
空間、時間、人間(関係)
職住隣接では、勤務形態には「場所(空間)、時間(期間)、人間(関係)」の3つを基本とする。
1.働く場所(空間)
人生後半戦になると現場仕事から管理仕事になりデスクワークが増えるとは、コンピューター化が進む前の考え方であり、現在は管理仕事の多くはコンピューターでICT1化されている。
したがって、人生後半戦では同じ現場仕事でも、負担の少ない仕事を任されることが多い。実際に、定年後の仕事の多くはこのような仕事であり、中高年が現場で働いているのを見かけることが多くなっている。
職住隣接では、現場のない仕事を自宅の仕事部屋で行うか、現場のある仕事と仕事部屋で行う仕事を並行して行うかの二択になる。現場だけで完結したいのであれば、それは職住分離の働き方になる。
2.働く時間(期間)
働く時間は共同作業を前提にすると自分一人では決められない。前述の働く場所が決められる現場がある場合は働く時間も同時に決まる。事務所のような職場も現場といえるので場所と時間をセットで考える必要がある。
働く時間を自由に決められる仕事を選ぶということではない。自分がもっとも能力を発揮できる時間帯を選ぶことによって、自ずと生産性が高まるだろう。また、子育てや介護などの優先事項とのバランスもとりやすくなる。
人生後半戦には働く期間も考えなければならない。加齢による体力、視力、聴力、集中力、記憶力など、仕事に必要な力は衰えてくる。1日の働く時間でなく、3年毎に自分の基本的な力を確かめながら、働く時間と期間を選ぶ必要もある。
3.人間関係も仕事なのか
1人で可能な仕事もあれば、複数人でしかできない仕事もある。複数人のチームで行う仕事にはコミュニケーションが必要であるし、流れ作業の場合は自分のペースだけで仕事はできない。
コミュニケーションも助け合いも仕事の内であったが、現在は作業機械やICT機器の操作も人間関係の間に入ることがある。機械操作ができなければ協力も共同作業も難しくなってくる。
人間関係は人間性が問題になることが多いが、決して人間性だけではなく個々の特性が職場環境に影響することがある。多様性・公平性・包括性というDEI2の視点も考慮しなければならない。
自宅だけで行う仕事
職住隣接で仕事を行うときには、メインとなる仕事の勤務形態を優先することになる。自宅での仕事を優先したいのなら、独立事業者(個人事業、フリーランスなど)としての事業形態と契約形態を選択することになる。
独立事業者でも複数の事業を行っていたり、複数の顧客と契約を結んでいるときには、自分が定めた場所、時間、人間関係との調整を行うことになる。このようなことを繰り返していると、職住隣接を行っている実感がなくなってくる。
職住隣接を自分のペースで行うには、自宅の仕事部屋に決まった時間にいることを心がけるとよい。結果的にこの時間帯を自分の勤務時間帯にするのが現実的な選択となる。
職住隣接の場所は自宅の仕事部屋、時間帯はいつもいる時間、そして人間関係は直接の訪問対応と通信媒体を使っての対応となる。発信は多様な通信媒体で行ってもよいが、受信は特定の媒体での対応に制限すると職住隣接の環境が保たれる。
できる限り、時間差での対応が可能になるようにEメールやボイスメール(留守電)は必須であるし、休養にも対応できるように仕事専用のショートメールを通じるようにし、操作に慣れておくなどの工夫は必要である。
勤務形態の環境を確保する
職住隣接の勤務形態を維持するためには、次のツールやサービスが役に立つ。
1.仕事専用のスマホ:できれば携帯できるPCかタブレットがあると便利
2.備品のデリバリー:消耗品の調達に時間を割かないようにするため
3.発送業者への登録:書類を届けるためだけに外出するのを避けるため
4.ネット銀行の利用:仕事こそすべてキャッシュレスにすべき、経費整理も簡単
どんな仕事でも雑用があるし、外出すると隙間時間が発生する。場所と時間の効率、人間関係のストレスを感じないようにする環境を整えることで、職住隣接の勤務形態は確保できるようになる。
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