事業形態による働き方~人生後半戦でのビジョンと継続性を考える

事業形態による働き方~人生後半戦でのビジョンと継続性を考える

人生後半戦の仕事は、やりたいことよりできること、できることより続けられることを選ぶことで、結果的にやりたいことにつながります。

職住隣接のビジョンとは

企業経営にはMVV(ミッション、ビジョン、バリュー)1という企業の方向性を示す指針となる考え方がある。職住隣接では事業の方向性を同じ用語で考えるが、企業のMVVと異なる。

職住隣接では、まず自分自身が仕事や生活、人生で大切にする「バリュー」を基礎として考える。バリューとは「何を大切にしているのか」「どのような価値観を持っているのか」を意味する思考の核である。

職住隣接での「ビジョン」とはバリューという思考と行動をつなげるイメージであり、実際に行動を起こすための基本となる。そして事業の「ミッション」と現実的な事業アイデアにつなげていく。

人生後半戦においては、ビジョンが事業形態を選択する要となる。残された時間や資源が限られる中、自分が本当に目指したい方向性を明確にすることで、迷いや無駄な試行錯誤を減らし、より充実した働き方や暮らし方を実現できるからである。

事業の価値観やアイデアを分けて考えるのではなく、価値観とアイデアをビジョンという事業イメージとして考えることで、いわゆる事業形態に含まれる、業種や職種、規模や継続性などが見えてくる。

事業アイデアとその実現性

ビジョンが「あるべき姿」であるのに対し、アイデアはその「あるべき姿」を実現するための具体的な方法である。職住隣接では事業アイデアを考える際に、過去の延長線上でも、新しい挑戦でも問わない。アイデアに新旧はない、タイミングが重要なだけだ。

事業アイデアを検討する際には、自分自身の価値観やビジョンとの整合性を確認する必要がある。アイデアがどれほど魅力的であっても、実現可能性が低い場合には現実的な選択肢とはならない。職住隣接では、アイデアの新規性や奇抜性よりも、実現可能性と継続性を重視する。

アイデアの実現可能性を客観的に評価するためには以下の視点が役立つ。

  • リソースの確認:時間、資金、人材など、必要なリソースが揃っているか。
  • 市場のニーズ:自分のアイデアが社会や顧客にとって必要とされているか。
  • 技術的・法的制約:技術面や法的な条件を満たしているか。

これらの要素を総合的に判断することで、アイデアが単なる思いつきではなく、実行可能な計画へと形作られる。

人生後半戦における継続性の視点

人生後半戦で事業を考える際には、働く期間と事業継続期間を見据えた計画が欠かせない。若い頃には試行錯誤を繰り返しながら方向性を模索する余裕があるかもしれない。だが、人生後半戦では限られた時間や資源の中で計画的に進める必要がある。

こうした計画は、失敗や後悔を避けるためだけではない。むしろ、自分のビジョンに基づいて思考し、行動したという自信と納得感を得ることで、より充実した人生を築くためのものなのだ。

職住隣接では「最後を決めれば、最初が見えてくる」という逆算的思考法を重視する。「どのくらいの期間事業を続けたいのか」「どのような形で事業を終えたいのか」を考えることで、現在何をすべきかが明確になる。

このような未来から逆算するバックキャスティング2の発想は、限られた時間や資源を有効活用するために非常に有効だ。

また、継続性を考える際には、自分自身の体力やスキルだけでなく、事業そのものが社会や市場において持続可能かどうかも検討する必要がある。職住隣接では、自分の暮らしと事業が密接に関わるため、無理なく継続できる形態を選ぶことが求められる。

このように、人生後半戦では「何を始めるか」だけでなく、「どのように続けるか」「どのように終えるか」を含めた全体像を描くことが重要だ。

職住隣接の事業形態を具体化するために

1. ビジョンを具体的な事業形態に落とし込む手順

ただ「あるべき姿」をイメージするだけでなく、これを文章や図画で表現すると実現したい風景が見えてくる。

そして、その風景にいる自分と、現在の自分の価値観と能力を整理し、事業の方向性を設定する。業種や職種、事業規模と事業期間、必要な資格や許認可など、調べることや準備することが明確になる。

既にある事業なら見学したり実体験するのも1つの方法であるし、新たな事業形態を試みるなら企画書の作成から始める必要がある。自分の好きなこと、やりたかったことで地域で事業を行う場合は、エリアマーケティング3という考え方が必要になる。

2. 事業を行う上での制約を外す考え方

職住隣接では、「できない」を「どうすればできるか」に変える視点が求められる。人生後半戦の制約条件として代表的なのが「定年」である。定年後も働く場合は雇用延長、転職という雇用か、または独立という選択もある。

いずれの働き方を選ぶにせよ、自分のビジョンに合う方法を選びたい。そのためには、兼業や副業という半独立の準備期間を設け、実体験と調査で自分のビジョンに近づけることで可能になるかもしれない。

3. 現場のある事業の職住隣接はどうするか

自分の描いたビジョンが「現場で働いている」ということもある。法律や医療などの専門的な現場もあれば、農業や工場などの生産製造現場、多岐にわたるサービスの現場などがあるだろう。

現場がある場合は、「独立業務請負人4」という考え方が必要になる。この考え方は自分の能力を特定の業種、職種で発揮したり、特定の分野で専門性を発揮する個人事業の形態である。

この事業形態は、現場以外にも自分の業務管理、労務管理を行うことも必要になる。このような考え方は働くすべての人に必要な自己管理であり、その場として職住隣接は適しているのだ。

「ない」ことから始める思考法

ビジョンやアイデアはすぐに出てくるものではないが、待つ間にも時間は過ぎていく。であれば、「ない」を出発点として考える方法がある。

何もない状態を否定せず、むしろそれを受け入れることで、新しい可能性を模索することができる。職住隣接においても、まずは自分の現状を整理し、どのような働き方や暮らし方が自分に合うかを考えてみて欲しい。

ビジョンやアイデアがない場合、既存のビジネスの下で働くことも有効な選択肢となる。他者のビジョンやアイデアに触れることで、自分自身の方向性が見えてくることがある。

定年後に新しい仕事を探す場合、早めに職業紹介所を訪れたり、地域のコミュニティ活動に参加することで、新しい視点で働き方や暮らし方にも触れることができる。

働き方だけでなく、暮らし方や生き方のビジョンを模索することから始めてもよい。職住隣接は単なる働き方の選択肢ではなく、暮らし方や生き方そのものを見直す機会でもある。

地域活動や趣味を通じて、自分自身の価値観や目指す方向性を明確にすることができる。このような視点は、次章「暮らし方と職住隣接」につながり、自分自身のライフスタイル全体を設計するための基盤となる。


MVV、バックキャスティング、エリアマーケティング、独立業務請負人とは?

  1. MVV(ミッション、ビジョン、バリュー)
    企業経営における基本的な概念。
    Mission:社会で実現したいこと、Vision:ミッションを実現したときの状態、Value:実現のための価値観や行動指針。 ↩︎
  2. バックキャスティング
    将来の目標から逆算して計画を立てる思考法。現在を始点として未来を探索する方法をフォアキャスティングという。 ↩︎
  3. エリアマーケティング
    地域特性に基づいて調査分析を行い、事業を展開する手法。 ↩︎
  4. 独立業務請負人
    特定の業種や職種で、期限付きで専門性を発揮する個人事業の形態。 ↩︎