実家という場所の再発見 ~三つの「間」と新しいワークライフバランス

実家という場所の再発見 ~三つの「間」と新しいワークライフバランス
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実家という場所で、新しい生活が始まりました。予期せぬ出来事が重なる中で、三つの「間」との向き合い方が、私のワークライフバランスを変えていったのです。

実家での新たな生活のはじまり

両親がそれぞれの介護施設に入所し、私は実家で施設通いをしながら暮らした。父親は寝たきりなので外出はできなかったが、母親はときおり外出許可をもらい、実家に連れ戻ったりもした。

両親が存命中は、たとえ介護状態でも、実家の維持を行うことに努めた。夏は実家のメンテや庭の雑草対策、冬は除雪と凍結対策など、住んでいればこそできることがある。

介護中から仕事部屋としていたスペースは、そのまま使っていた。介護施設に終日いながらも、PCとスマホがあれば、仕事はなんとかできた。というか、できる仕事しかしなかった。

家族や親類、実家の近隣からも、今後の実家の行く末を聞かれたが、適当に対応していた。私自身も自分の家庭や自宅もあれば、遠方に住んでいる家族など、すべてを考えて結論を出さなければならなかった。

予期せぬ出来事と生活の転換

両親は実家を終の棲家として考えていたが、介護の状況から考えても、その望みがかなわないことはわかっていた。だからといって、早急に結論を出すことはせず、考えばかりが先行していた。

介護が終わったてからも半年ほどは手続きなどで奔走しなければならなかった。やっと落ち着き、両親が使用していた介護用品などを整理すると、思いのほか広い空間があることがわかった。

実家に住み替える案もなかったわけではないが、私が介護している期間にも、身内にも変化が起きていた。新たな命が芽生えたり、病気が発覚し入院したり、良くも悪くも想定外のことが続いた。

そして、ついに自分にも予期せぬことが起こったのだ。心筋梗塞を発症し、一命は取り留めたものの、しばらくは心臓リハビリと心身に過度のストレスがかからない生活を余儀なくされたのだ。

新しい生活様式の模索

想定していた介護が終わった後に想定した生活は大幅に変更しなければならなかった。自宅にいても気を使われ、かといって実家で整理をしようと思っても、身体的な負担からわずかな時間しかできなかった。

いろいろと考えた結果、家族が自分の時間を有意義に使える暮らし方に変えることにした。そのためにもっともよい方法として、1ヵ所で一緒に暮らすのではなく、個別に暮らすことにした。

思い切った決断だった。自宅は単なる荷物置き場と化し、私は実家でひとり暮らしをすることにした。心臓リハビリの一環として食事療法を家族とは別メニューで行っていたので、ある意味では好都合だった。

最初の内は短期間だけやってみようということだったが、慣れるにつれて、互いに連絡を取り合うものの、実際の生活は各自が自分のペースで行ってい、半年が経った。

実家内のスペースを再配置

実家は私が住むことになったので、私の生活に適したスペースに配置換えを行った。リフォームも考えたが、すでに介護用にあれ程度はリフォームしていたので、さらに手を加えることは止めた。

基本的な生活の機能を満たせばいいので、不要なものは大きな家具以外は処分した。それでも両親が保管していた家財の2割程度だった。続けて作業することができないので、生活スペースを確保するのに1ヵ月くらいかかった。

仕事スペースは、すでに介護を行っていた時から整えていたので、あまり整えるのに時間はかからなかったが問題が1つあった。地域コミュニティとのお付き合いが思った以上に時間がとられた。

自宅で仕事をしていると言っても理解してもらえないのだ。仕事をしている時間帯に、たび重なる電話や訪問があり集中できないのだ。このような状態では、今までと同じ仕事はできなかった。

新型コロナ禍がもたらした変化

仕事を行うのを半ばあきらめていた時に、新型コロナ禍で社会は一変した。同時に、在宅ワークを奨励するような働きかけがあり、自宅で仕事を行うことが当然のようになった。

状況は変わり、相次ぎ旧知の取引先からテレワークの指導を仰がれるようになった。しかし、今度は自分の病状や継続した仕事はできないと説明しなければならなかった。

仕事をしたいのにできないというのは痛し痒しで歯がゆかったが、仕方がないとあきらめた。新型コロナ禍で在宅ワークやテレワークという語句は広く知れ渡ったが、職住隣接までは理解してもらえなかった。

在宅ワークやテレワークという働き方は、職住隣接の一部であり、一時的な働き方ではない。この働き方が仕事と生活のバランスをとるのにもっともよい方法とするためには、仕事や生活自体も変えなければならないのだ。

三つの「間」の見直し

新型コロナ禍も落ち着き、健康状態は安定しているが、やはり心身に過度のストレスがかかると体調が悪くなる。以前のように短期の旅行もたまの外食もあきらめた。これも生きるためである。

生活スペースはモノが少なくなり、かつての居間は多目的スペースとなり、家具などはほとんどない。テレビは見ないので処分し、タブレットで配信を見るだけだ。寝室は寝具しか置いていないし、極めてシンプルなライフスタイルになった。

仕事スペースはあまり変わっていないが、仕事の仕方を変えた。仕事の仕方とは、働き方だけではなく、仕事のプロセスも自宅で行えるように変えた。主に対外的なリアルタイムのコミュニケーションを止めたことが大きく変わったことだ。

生活面では「場」に対する考え方を変え、仕事面では「時間」に対する考え方を変えたことになる。そして現在は「人間関係」についても絞り込んでいる。

場(空間)、時間、人間(関係)という3つの「間」を見直しながら仕事をしているのが現状である。

職住隣接物語