両親の介護から本格的な職住隣接へ~「職」と「住」の見直しへ「住」の見直しへ
両親の介護体験から始まった職住隣接ですが、新しいライフスタイルへの可能性に気づかせてくれたました。まずは介護のはじまりからお話しします。
母の要介護度が上がるにつれて
母が最初に脳梗塞で倒れたのは、私が20代後半のころだった。半身麻痺という後遺症が残り、その後も数年ごとに再発し、入退院を繰り返した。私が40代になるころには、母は車いすを常用するようになっていた。
要介護認定と障害者認定を受けた母の介護は、父と交代で行っていた。父が定年を迎えてからは父への負担が大きくなり、母が入院するたびに私も会社を休まなければならない状況が続いた。
母は施設へのショートステイとデイサービスは利用したが、長期入所には強い拒否があった。仕事と自分の家庭生活、そして実家での介護を行うのは、時間的にも体力的にも限界だった。
父の介護が加わりギブアップした
そして数年後、今度は父が癌で手術を受け、実家で2人の介護を行うことになった。この時点で介護施設への入所を勧めたが、両親の了承は得られなかった。
それまで父と2人で母の介護を分担していたので、私の担当は母の介護の半分だった。しかし父が介護状態になると、母の介護に父の介護が加わり、実質4倍となる2人分の介護が必要になった。
父は介護が必要な状態であるにもかかわらず、母の介護を続けたいという思いから無理を重ね、3年で4回も骨折してしまった。ようやくこの時点で施設入所を受け入れてくれた。
当初は両親を同じ施設に入所させることができたが、介護度が違うため、別々の施設に移るように勧められた。私は2か所の介護施設と実家、そして自宅を行き来する生活を送るようになった。
両親の介護から学んだこと
参考までに、介護について私の経験から気づいた点を3つお話ししたい。
1つめは、介護が始まってからの意思確認には時間がかかることだ。認知症の発症は人によって症状が異なる。
母は脳梗塞が原因で、父は軽度認知症からアルツハイマー型へと進行した。意思確認を円滑にするためには介護前からの近親者によるコミュニケーションが重要なのだ。
2つめは、介護制度を理解することよりも、要望をしっかり伝えることが大切であるということだ。制度は変わっていくので理解しきれないことがある。
それよりも、要介護者がどのような介護を望んでいるかを施設側に明確に伝えることが重要である。
3つめは、介護方法が在宅介護より施設介護へ期待できることが多いことである。最新の介護機器や電子機器による対応など、施設ならではのケアが可能だ。
ただし、どちらが適しているかは、介護に要する費用と時間のバランス、要介護者と介護者の生活負担のバランスなど、総合的な判断が必要である。
介護の経験から見えてきた職住隣接の可能性
この介護の経験から、私は職住隣接という新しい生活様式の可能性に気づいた。母の介護のために実家の一室を仕事場として使い始めたことが、その始まりだった。
当時は切迫した状況での選択だったが、振り返ってみると、これが私の人生における大きな転換点であった。
実家での仕事は、最初こそ戸惑いがあった。来客対応や電話応対など、業務上の制約も多く、介護の合間を縫っての仕事は効率が悪いと感じていた。
しかし、時間の経過とともに、この働き方にも独自の利点があることに気づき始めた。たとえば、移動時間がないことで、その分を仕事や介護に充てることができた。
また、母の具合が悪いときにも、すぐに対応できるという安心感があった。何より、心理的な余裕が生まれたことで、仕事の質への影響も少なくなった。
新しいライフスタイルとしての職住隣接
当初は介護と仕事の両立のための一時的な対応だったが、この経験は私に「職」と「住」の新しい関係性を考えさせるきっかけとなった。
実家という空間が、介護の場であると同時に仕事の場としても機能し得ることを実感したのである。
特に印象的だったのは、時間の使い方が柔軟になったことだ。従来の通勤を前提とした働き方では、決められた時間に職場にいることが求められる。
しかし、職住隣接では、その時々の状況に応じて、仕事と生活のバランスを取ることができた。
両親が施設に入所した後も、この経験は私の中で大きな意味を持ち続けた。職住隣接という働き方は、単なる場所の問題ではなく、生活全体のあり方を見直すきっかけだった。
その他にも、時間の制約を自分で調整することができ、心身の負担を軽減することができた。実家を仕事と生活の空間と見直すことで有効活用でき、新しい生活のリズムも生まれた。
多様な働き方を受け入れる社会の中で
両親の介護を通じて、従来の働き方では対応できない状況に直面したわけだが、この経験は、むしろ新しい可能性を見出すきっかけとなった。
実家での仕事は、最初は一時的な対応策だったが、次第にその利点が見えてきた。仕事の質に大きな影響を及ぼさずに、時間の使い方が柔軟になり、心理的な余裕も生まれた。
近年、特に新型コロナ禍以降は、働き方に対する考え方は大きく変化してきている。長時間労働を厭わない従来の価値観から、仕事と生活の調和を重視する方向へと変化してきた。
このような社会の変化は、私の選択した職住隣接という働き方を後押ししてくれた。育児や介護との両立、個人の生活スタイルに合わせた働き方など、多様な選択肢が認められるようになってきている。
職住隣接という選択は、単なる働き方の一つではなく、新しい生活様式としての可能性を持っている。それは効率や生産性だけでなく、生活の質や持続可能性という観点からも、重要な選択肢となり得るものだ。
私の場合は介護がきっかけだったが、この経験を通じて、職住隣接という新しい生活様式の可能性に気づき始めていた。