「職」と「住」の新しいパラダイム ~ 時間の還元と空間活用の可能性
この記事は「第2章 職住隣接の番外編」です。
職場と住居の関係を、時間の還元と空間の有効活用という新しいパラダイム(時代の考え方)で捉え直すことで、個人と組織双方にメリットをもたらす可能性が見えてきます。
最適な「職」と「住」の関係とは
最適な仕事の場を個人レベルで設定することは現実的ではないが、業種や職種ごとに最適の場を設定することは可能である。集中して作業することで効率が上がる職種もあれば、OJTでスキルが向上する職種もある。
最適な生活の場は仕事以上に個人差が大きい。ライフスタイルや自分の時間の楽しみ方は、本来は仕事とは関係ない。法律やモラルを逸脱するような行為を除くことは言うまでもない。
職場と住居の経済的関係は、個人と組織がどのように考えているかによって異なる。扶養手当、住宅手当、通勤手当などを支給する組織もあれば、まったくない組織もある。
こうした手当の有無は、従業員の職住選択に影響を与える一因となっている。しかし、たとえ手当がない場合でも、多くの従業員は職場と住居の間を移動しなければならない。
この移動に着目すると、個人と組織の双方に利益をもたらす解決策が見えてくるのではないだろうか。
時間還元という新たな視点
時間と空間は密接に関連しており、私たちの生活様式に大きな影響を与えている。職と住の関係は、この時間と空間という二つの要素のバランスの上に成り立っている。
例えば、組織がテレワークやサテライトオフィスの活用を推進することで、従業員の通勤時間を削減し、その分の時間を従業員に還元することができる。
これにより、従業員は仕事とプライベートのバランスを取りやすくなり、結果として満足度や生産性の向上につながる可能性がある。
また、通勤回数を減らすことで、従業員は通勤に伴うストレスを軽減できるだけでなく、移動に費やしていた時間を自身の成長や趣味に充てることができるようになる。
時間還元の重要性
つまり、職場と住居の移動に関する課題解決において、経済的な手当てだけでなく、時間の還元という観点を取り入れることが重要なのだ。
この時間の還元という考え方は、組織にとってはコスト削減につながり、従業員にとっては満足度の向上をもたらす可能性がある。
このように、個人と組織が協力して時間の還元を実現することで、双方にメリットのある職住関係を築くことができるのではないだろうか。
空き時間と空き空間の有効活用
「職場にいるときは住居にはいない、住居にいるときは職場にいない」という状況を考えると、職住の空き時間と空き空間を効率的に活用することで、コストを削減し、個人に還元できる可能性がある。
ひとり暮らしの場合、空き時間と空き空間の解消は限定的だが、仕事に関連する道具の会社支給化や借り上げ制度を導入することで、個人の経済的負担を軽減できるかもしれない。
例えば、スーツや制服、通勤用の自転車や自動車などを会社が提供することで、個人はこれらの購入・維持コストを抑えられる。
家族、共同生活者がいる場合
一方、家族や共同生活者がいる場合は、自宅の利用時間や利用日のシフトを調整することで、職場としての活用が可能になるだろう。これにより、オフィススペースのコストを削減しつつ、個人の働き方の柔軟性を高められる。
さらに、子育てや介護、病気などで通勤が困難な人に対しては、必要な機器や設備を貸し出すことで、在宅ワークの環境を整備できる。
これは、個人のワークライフバランスの改善につながるだけでなく、組織にとっても人材の多様性を確保する上で有効な施策となり得る。
新たなビジネスチャンスの可能性
加えて、職と住のそれぞれの空き時間と空き空間の有効活用をビジネスとして展開する可能性も考えられる。
例えば、自宅の一部を他人に貸し出すシェアハウスの運営や、遊休スペースを活用したコワーキングスペースの提供など、新たなビジネスモデルが生まれるかもしれない。
また、在宅ワーク環境の整備を請け負う専門業者が登場することで、個人や組織のニーズにきめ細かく対応できるようになるだろう。
他にも、現在ある食事のデリバリーサービスを、社食のデリバリーサービスに特化し、業種や職種に合わせ、企業や個人事業の枠を越えたフードビジネスなどが考えられる。
このように、職住の空き時間と空き空間を有効活用することは、個人と組織の双方にとってメリットのある方策であり、さらには新たなビジネスチャンスを生み出す可能性も秘めているのだ。
状況に応じて柔軟に対応することで、コスト削減と個人への還元、そして新たな経済活動の創出を実現できるかもしれない。
現代の働き方と職住関係の変化
現代の働き方は多様化しているテレワークの導入により、従来の「職住分離」の実践方法も変化している。自宅で仕事をするテレワークでは、職場と住居が同じ空間になってしまうため、新たな分離の工夫が必要になる。
しかし、移動時間の有効利用や、空き時間・空き空間の利用、あるいは縮小などの取り組みは、すでに一部の企業や個人によって実践されているものの、まだ広く浸透しているとは言えない。
労使間での協議、国や自治体のサポートも行われているが、時間がかかる割には実効性は限られているのが現状だ。
本当の意味で「職」と「住」の経済的関係を見直し、個人と組織双方のニーズを満たす新しい職住関係を構築するためには、ひとりひとりが主体的に行動することが何よりも重要である。
個人の生活の質の向上と、組織の生産性の向上を両立させる取り組みを、社会全体で推進していくためには、個人の意識改革と行動変容が不可欠なのだ。
新しい「職」と「住」の関係構築に向けて
「職」と「住」の経済的関係は、単純な給与の受け取りだけではない。それは自己投資の場であり、生活の質を向上させる機会でもある。
マクロ経済の影響を考慮しつつ、個人と組織それぞれの視点から最適な職住関係を考えることが重要だ。
現代の多様な働き方を取り入れながら、新しい職住関係のあり方を模索していくことが求められている。
移動時間の有効利用や、空き時間・空き空間の利用など、すでに実践されている取り組みを社会全体に広げるためには、一人一人が主体的に行動することが何よりも重要である。
個人の生活の質と組織の生産性の向上を両立させる新しい職住関係の構築に向けて、自分自身の働き方を見直し、最適な職場環境と生活環境を手に入れることが可能になるだろう。