99「第14章 職住隣接の未来」を読む前に~3つのお約束


フェイクだ、誤情報だ、と考える前に、元データを確認すること、全体を把握することが大切です。記事内容に合わせたデータの「切り取り」かもしれません。読み手も賢くなることがネット時代には必要です。

第14章 「職住隣接で変わる職業観~4つの職種と適した仕事環境」の記事冒頭
未来とは何年後か?
現在から見て、これから訪れる時間はすべて未来になる。明日も未来、1年後も10年後も未来である。ただ、人それぞれ未来が何年後なのかというイメージが異なるので、「職住隣接の未来」は2045年と想定する。
第二次世界大戦が終わった1945年から100年後が2045年であり、「切りがいい」という理由だけである。正確には1951年のサンフランシスコ平和条約で日本が独立したが、この記事を書いている2025年から20年後、これまた切りがいい。そのとき、あなたは何歳になっているだろうか。
これまでの13章70記事では、過去から現在にかけて、私の経験と一般的な考えを交えながら「職住隣接」についてお話ししてきた。今から20年後に「職住隣接」がどう変わっているか、予測と予想を交えてお話しするのが第14章である。
予測と予想は紙一重
第14章を読む前に、「予測と予想」についてお話ししておきたい。そんなことはわかっているという人は、すぐにでも第14章に戻ってもかまわない。ここでは「予測どおりだ、予測が当たった」とはどういうことなのかをお話ししておきたい。
まず、予測と予想の違いである。予測とは、数値データなどを元にした客観的な見解である。予想とは、その予測を元にして個人の見解を述べることであり、根拠となるデータや傾向なしに見解を述べる「憶測」とは異なる。
令和6年度高齢社会白書の「高齢化の推移と将来推計」を見ると、高齢者人口や総人口、高齢化率の変化がわかる。このようなデータが予測の実態である。「だから街中にはシニアが多い」と感じるのは、この予測をもとにした個人の「予想」である。
予測の切り取りに注意
2005年、2025年、2045年の65歳以上の高齢者人口と総人口、高齢化率を抜粋すると(表1)のようになる。また2005年の人口を100%としたときの割合を併記した。
(表1) | 2005年 | 2025年 | 2045年 |
65歳以上 | 2568万人(100%) | 3652万人(142%) | 3945万人(153%) |
総人口 | 12777万人(100%) | 12326万人(96.4%) | 10880万人(85.1%) |
高齢化率 | 20.2% | 29.6% | 36.3% |
予測データは、同じ数字を見れば誰もが増加や減少の傾向を同じように受け止める。一方、「街中にシニアが多い」という印象は、個人の感覚や住む場所、性別によって異なる。
高齢化が進んでいるというとき、実数(人数)と割合(%)の両方を比較することが大切である。割合だけを見て「高齢者が増えた」と判断するのは、必ずしも正確ではない。
高齢化率が上がる背景には、総人口の減少がある。高齢化とは高齢化率を指し、高齢者数の増加だけではない。高齢化率だけを切り取って予想しても、実態を正確に把握しているとは言えない。
グラフから見てわかるように、2020年以降2070年までは横ばいなのだが、高齢化率は右肩上がりである。この原因は、分母となる総人口が減少することによる。高齢化率が上がる原因は総人口(分母)の減少と高齢者人口(分子)の増加の2つの要因があることがわかる。
少子化は割合ではなく人数
少子化と高齢化をまとめて「少子高齢化」と呼ぶことがあるが、両者の原因や問題はまったく異なる。高齢化の主な問題は社会保障費の増加であり、少子化の主な問題は社会保障費を担う生産年齢人口(労働力人口)の減少である。
前掲の「高齢化の推移と将来推計」から14歳以下の人数を抜粋し、少子化率を同じように計算すると(表2)のようになる。
少子化は毎年の出生数の減少で報道されがちだが、ここでは14歳未満の総数で考察するのが適切だと考える。少子化率としての減少は大きくなくても、人数の減少率から見ると、その深刻さがより鮮明になる。
(表2) | 2005年 | 2025年 | 2045年 |
14歳以下 | 1752万人(100%) | 1363万人(77.8%) | 1103万人(63.0%) |
総人口 | 12777万人(100%) | 12326万人(96.4%) | 10880万人(85.1%) |
少子化率 | 13.7% | 11.0% | 10.1% |
量と質の比較も重要
高齢化や少子化を考えるとき、「量」は人数を指すが、「質」とは単なる良し悪しではなく、「ラベル(内訳や属性)」を意味する。視点を変えて、高齢化率を生産年齢人口と比較することで、社会構造の変化がより明確になる。(表3)
予測の段階では数字の変化を追うが、予想になると「3人で1人を支える騎馬戦型」や「1人が1人を支える肩車型」といったイメージで語られることもある。人口からの予測では2045年でも肩車型になってはいない。
この場合、予測データは適切でも、それに基づくイメージ(予想)は実態と乖離しているかもしれない。
奇しくも、財務省が発表した国民負担率(令和5~7年度で約50%)と、この予測が示す状況は一致しているように見える。
これは偶然かもしれないが、予測や予想、特に未来に関する予測や予想は、元データを注視せずに鵜呑みにしてはいけない。
(表3) | 2005年 | 2025年 | 2045年 |
65歳以上 | 2568万人(100%) | 3652万人(142%) | 3945万人(153%) |
15-64歳 | 8409万人(100%) | 7310万人(96.4%) | 5832万人(85.1%) |
高齢/生産年齢率 | 30.5% | 50.0% | 67.6% |
職住隣接の未来とは
第14章は「職住隣接の未来」をテーマにしている。「未来の職住隣接」とは、未来予測をもとにした職住隣接の姿を描くことである。
ここでの予測とは、高度な数学や統計学の知識は必要ない。少なくとも「実数と割合」、「量と質(ラベル)」の2つの視点は、必ず確認していただきたい。
元になるデータから切り取った数値による予測、このような予測に基づいた予想に気づくことで、上辺だけの予想に惑わされないで欲しい。さらに、特定の予想に合わせるために意図的にデータを切り取った「予測」も存在するため注意が必要である。
「未来の職住隣接」に対して、「職住隣接の未来」とは、現状の職住隣接が未来社会でも通用するかを考える視点でお話しする。そのためには、20年後の自分を的確にイメージするための自己管理が不可欠である。自分のことを知らなければ、未来社会を予測と予想ができても、うまく適応できるとは限らない。
ただ長生きするだけでなく、健康で長生きし、個人生活でも社会生活でも生きがいを持つためには、予測と予想の両方が大切である。第14章を読む前に、ぜひこの点を意識してほしい。
